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2023.12.15更新

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経営初心者だからこそ、企業理念が頼りだった――岡田武史氏が今治. 夢スポーツで取り組む仲間集めと組織づくり(前編)

労働人口の減少などによる採用難の時代、企業は社員を自社のファンにしながら、採用力や企業成長力を高めていく必要があります。前提として、企業価値を構成する要素には様々な事象が関係しますが、その中でも人的資本は重要な要素の1つであり、適切なタレントを獲得・維持することは企業の持続的成長に不可欠です。

中長期的に自社で活躍するタレントを獲得するためには、タレントを惹きつけることとタレントを活かすことが大切です。そのためには、まず「共感、愛着、信頼」などの本質的な価値を意識した会社づくりをすることだと、TalentXは考えています。

そのようなファンづくり、会社づくりをしているのが、元サッカー日本代表監督である岡田武史氏が代表取締役会長をつとめる株式会社今治.夢スポーツです。「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する。」を企業理念として掲げる同社には、夢や理念に共感した人が自然と集まっています。

本記事では、今治.夢スポーツの仲間集めと組織づくりをテーマに、前後編で岡田武史氏のインタビューをお届けします。まず前編では、岡田氏が大切にする理念経営について、そして理念や文化を浸透させるために必要なことを伺いました。

株式会社今治.夢スポーツ
従業員数: 92名(2020年10月時点)
※コーチスタッフ・トップチーム選手を含む
事業概要:

スポーツ事業、健康事業、教育事業

取材対象:

岡田 武史 氏
株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長

理想のクラブを0からつくるため、経営者に──元日本代表監督・岡田武史氏が今治で挑戦する“理念経営”

今回は、今治.夢スポーツにおける経営や組織づくりについて伺いたいと思います。まずは、岡田氏が経営者になった経緯を教えてください。

岡田氏:
もともとは、サッカーのことだけのつもりで始めたんですよ。「岡田メソッド」という原則を16歳までに落とし込み、あとは自由にすることによって、主体的にプレーする自律したサッカー選手やクラブをつくりたいと思っていました。今まで、日本のサッカーは高校生までは自由にさせていたんですよ。でも、自由なところから判断力は育たない。「守破離」と同じで、まずは縛りがあり、それを破ってはじめて判断力や自律性がでてくるんではないかと思ったのです。

そんなことをあちこちで喋っていたら、Jリーグの3チームが「全権委ねます」と言ってくれました。でも、それでは各クラブのコーチがやってきた過去を否定することになります。そこで、10年かかっても1からできるところはないかと探していたときに、思い当たったのが今治でした。僕の先輩が会社をやっていて、上場の手伝いで年に1,2回通ってたんですよ。

その先輩がサッカー好きで、アマチュアのチームを持っていました。そこで「サッカークラブをつくりたい」と相談したら、「素晴らしい。ただし株式51%取得してからにしろ」と言われて。なんのことかよく分からないけど、取りあえず「わかりました」と言われたようにしたんです。それで気づいたら経営者になっていた(笑)

意外な経緯で経営者になったのですね。続いて、経営理念に込めた想いを教えてください。

岡田氏:
会社を経営するのなんて初めてだから、立ち上げの時は色んな経営者に「経営とは何か」を聞きにいきました。そこでみなさん、「一番大切なのは理念、ビジョン、ミッションだ」とおっしゃるんですよ。そこで色んな会社の理念を見てみたのだけど、なかなかピンときませんでした。

でも、記者会見の日はどんどん迫ってくるから、決めなきゃならない。そこで自分の想いを経営理念にしようと思いました。「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する。」という経営理念は、ものすごく考え抜いたわけではなく、僕の人生観なんです。

そしていざ経営を始めてみたら、分からないことだらけですよ。だから経営理念を判断基準にするしかありませんでした。たとえば、ビブスという、グループ分けの時とかに使うリバーシブルのベストがあるのですが、今治はタオルの町なのでタオル地で作ったんですよ。でも、タオルの裏には印刷が乗らなくて、ビブスの片面にはビブススポンサー名が出ないことがわかりました。みんなは「こんなの誰も見ないから大丈夫ですよ」と言ったけど、ちょっと待てよと。僕たちの理念は「物の豊かさより心の豊かさを大切にする」、すなわち目に見えない信頼や共感を大切にするということではないかと。スポンサーが一度でも「あれ?」と違和感を持つようなことを、信頼を損なうようなことをしてはいけないと思って、作り直しました。

経営理念に則って信頼や共感を大切にしていらっしゃるんですね。

岡田氏:
まわりの経営者には、「お前は甘い。そんな経営したら潰れるぞ」と言われましたよ。でも、このコロナ禍でJリーグの7割が昨年度の決算より赤字なのに対して、うちは大きな黒字が出ました。色んな要因がありますが、ひとつはパートナーさん(スポンサー)がほぼ降りなかったことです。営業日報をみていると、「うちも苦しいけど、お前ら頑張ってるから続けるわ」と言ってくださっているんですよ。最近社員ともね、「僕たちは間違ってなかったかもしれないね」という話をしています。すぐに結果は出なかったけれど、企業理念は本当に大事で、それにしたがってやってきてよかったと今は思っています。

理念経営を進めるためのフィロソフィーとプロミスを作る

理念経営を進める中で、フィロソフィーや行動指針・バリューも設定されていますね。サッカークラブで、ここまで言語化しているケースは少ないと思いますが、そこまで詳細に設定されている理由について教えてください。

岡田氏:
サッカーの現場では、フィロソフィーが行動指針になります。たとえば、外国人監督とは、フィロソフィーにアグリーしてもらったうえで契約をしています。そうすると、勝てない時に「フィロソフィーにある“エンジョイ”にアグリーしたじゃないか。でも選手はエンジョイしていない。どうなっているんだ」という議論ができます。そこで、僕たちも契約する時、スタッフ全員がフィロソフィーにアグリーしないと入社させないし、コーチ契約もしません。今年からは、選手にもアグリーさせています。

フィロソフィーはサッカーに関するものですが、それとは別に「プロミス」という会社や社員・コーチが仲間・お客様・株主・社会などに約束するものを掲げています。「新しいクラブの歴史を創るという情熱を持つ」「遠い夢を追い近くの目標を見据え、今できることを全力でします」というものや、バックオフィスは「すべての仕事を我々の企業理念やミッションステートメントに合致させます」、コーチは「選手や子どもたちをリスペクトします」というように、何かあれば「プロミスでこうだったから、こうすべきじゃないか」と判断するようにしています。

サッカーの監督と会社の経営者では、組織づくりに違いはありますか?

岡田氏:
最初は経営のことがわからなかったので、経営とサッカーはまったく違うと思っていました。しかし4年くらい経った頃、経営とサッカーのチームづくりって根本は一緒だなと思うようになったんです。

僕は選手に厳しいことを言うけど、なんとかしてやろうという気持ちが強いです。一人ひとりのノートを作って、「こいつをこの1年でどうにか上手くしてやろう」と、必死になってやっています。それは会社でも一緒で、「まずひとつの同じ目標に向かって、みんなが最高の力を合わせる状況を作っていく」、そして「個人の成長がチームの成長になる」、これは共通していえることですよね。

そしてマネジメントで最も重要なのは、「業務のマネジメントよりも、心のマネジメント」だということ。みんな戦術だなんだと言うけど、それよりもまずは選手のメンタルのマネジメントをして、同じ方向を向かせたり、モチベーションを上げたり。そういうことが実は大事なんですよね。色んなことが、経営とサッカーでは同じなんだなと思い始めました。

何かあれば、経営理念やプロミスに立ち返って判断をする。それが、組織がひとつになるためのカギ

どの企業も理念やビジョンを掲げていますが、浸透に苦労しているところもあります。岡田氏は、定着のために何か取り組みをしていらっしゃいますか?

岡田氏:
なにか事件が起こった時に、「もう一度みんなでそこに立ち返ろう」としたり、僕が経営理念やプロミスに従って決断をしていたりするうちに、浸透していきました。

たとえば、一昨年最終戦でJ3に上がれないことが決まりました。勝ったけどダメだったんです。僕はその2時間後に全員を集めて言いました。「うちのプロミスに、『起こることはすべてその会社やその人に必要なこと。その意味を考えろ』というのがあるよな。これは俺たちに必要なことだったんだ。じゃあ、なんで起こったんだと思う?」と問うたんです。すると、「今はまだ自転車操業だから、Jリーグに上がったらパンクしていたと思う」とか、「まだこれができていないから上がれなかった」など、色んな意見が出たんです。その声を聞いて、「じゃあ、まず今出た課題の解決からいくぞ」と、すぐに動き始めることができました。

これがもし、「あの時あいつが点いれていれば」とか言ってたら、1週間とか1カ月無駄にすることになりますよね。僕たちは、すぐに起こったことの意味をみんなで考えたから、2時間後に動き始めることができました。こういうことを積み重ねていくと、何か起こった時に「これは俺らに必要だから起こってるんだ」と社員が自ら考え出すんです。そうやって、徐々に根付いていきましたね。

ただね、会社というのは理念が一度根付いたから、それで終わりではないんです。急激に人が増えると薄まることもあるから、常に考えておかないといけないですよね。

組織の人数が増え、カルチャーが薄まる懸念があるなかで、どのようなことに取り組みましたか?

岡田氏:
組織の人数が増えて仕事が高度になってくると、どうしてもタコツボ化することはある。そうならないために、なるべく横串で繋がれるように意識しています。例えば、「しまなみアースランド」という公園の指定管理で環境教育をやっているが、色んな部署の人が半日業務として手伝う「アースランドデー」という日を設けています。コーチやバックオフィスの社員がみんな一緒になって花壇を整えたりするんです。

また、僕たちの一番の目的は、FC今治ファミリーを増やすことです。そのためにチームは勝たないといけないし、そのためにパートナーが必要ということですね。そこで全員がお客様を知り、東予地方でFC今治ファミリーを広げようという取り組みをしました。全職員をミックスして5つグループをつくり、四国中央、新居浜、西条、今治、そして離島の担当にして、「まずは行ってみろ。そこで現地の人と会話をしてみろ」と、経費で行かせたんです。実際に、現地で友達を作ってスポンサーを取ってくるなど、東予でFC今治ファミリーは確実に増えました。でも、それ以上にこの取り組みの効果として大きかったのは、社員とコーチのコミュニケーションが増え、会社の一体感ができたことです。これは本当にやってよかったですね。

編集後記

企業理念を単なるお題目にせず、意思決定の際に必ず立ち返ること、それを少しの妥協もなく徹底して貫き続けているからこそ、現在の今治.夢スポーツの姿があるのだと感じられるインタビューでした。あと一歩のところでJ3昇格を逃した、ともするとみんなが後ろ向きになりそうな時、すぐ切り替えることができたのも、理念経営を徹底していたからでしょう。

後編の記事では、どのように自社にとって優秀なタレントを惹きつけて獲得しているのかという観点で、情報発信の取り組みや仲間集めのこだわりなどを伺います。

監修者情報

監修 | TalentX Lab.編集部
この記事は株式会社TalentXが運営するTalentX Lab.の編集部が監修しています。TalentX Lab.は株式会社TalentXが運営するタレントアクイジションを科学するメディアです。自社の採用戦略を設計し、転職潜在層から応募獲得、魅力付け、入社後活躍につなげるためのタレントアクイジション事例やノウハウを発信しています。記事内容にご質問などがございましたら、こちらよりご連絡ください。

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