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2023.08.02更新

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夢を語り、行動する。仲間の信頼を失うようなことは、絶対にしない――岡田武史氏が今治. 夢スポーツで取り組む仲間集めと組織づくり(後編)

岡田武史氏×鈴木社長_対談_サムネイル

企業理念やビジョンに共感した人が、自然と集まる組織――口にするのは簡単ですが、実際につくろうとすると、難しいものです。元サッカー日本代表監督である岡田武史氏が代表取締役会長をつとめる株式会社今治.夢スポーツには、岡田氏が語る夢や理念に共感した社員、顧客、パートナーなど、仲間がどんどん集まっています。パートナーシップ契約を締結する企業は300社以上、そしてコロナ禍の厳しい時期も、契約を解除した企業はほとんどいなかったそうです。

そうした、今治.夢スポーツの仲間集めと組織づくりをテーマに、前後編で岡田武史氏のインタビューをお届けする記事、前編では理念経営の重要性について語っていただきました。後編である今回は、人材を惹きつけ活かす哲学、そして共感や信頼を大切にする姿勢について伺いました。

岡田武史氏×鈴木社長_対談_ロゴ
株式会社今治.夢スポーツ
従業員数: 92名(2020年10月時点)
※コーチスタッフ・トップチーム選手を含む
事業概要:

スポーツ事業、健康事業、教育事業

取材対象:

岡田 武史 氏
株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長

経営理念やビジョンに共感した人が自然と集まる──今治.夢スポーツがタレントを惹きつける理由

経営理念やプロミスが社内に浸透していることで、優秀なタレント人材を採用できていると聞いています。どこで貴社を知って、どういうところに魅力を感じているのでしょうか?

岡田氏:
うちには東大卒が4人、海外大学出身の人もいたりして、僕よりみんな優秀なんですよ。やっぱり、サッカーが好きとか、サッカーやってたとか、そこから興味を持つ人が多いですね。あと、これは街づくりも一緒だと思うのだけど、社員がSNSで情報発信をしているのを見て、「あの会社の社員、なんか楽しそう」「面白いことしているな」と思ったのがきっかけだったりします。

以前、内閣府の地方創生委員をしていたけど、「地方創生のために、若者の仕事をつくろう」とよく言うじゃないですか。でも、今治に若者向けの仕事を作っただけでは、外から若者は入ってきてくれないんですよ。でもね、そこにいる人たちがイキイキと楽しそうなメッセージを発信していたら、人は集まってきます。

今治に最初に行った時は、「そんなの無理だ、わかっとらん」って反対されることばかりだったけど、今では「本当に変わるかもしれない」と、みんなイキイキし始めていますよ。宝島社の『田舎暮らしの本』では、人口20万人以下の町で今治市が住みたい田舎ランキングで1位を獲得しました。特に仕事が増えたわけではないけれど、みんなが面白そうだと集まってきて、毎年1500人ずつくらい転入してきているんです。僕が発信していることではなくて、一般の人たちが情報を発信しているから。それって会社も一緒で、社員がイキイキしているから、「面白そうだ」とコンタクトを取ってくれる人が増えているんだと思います。

経営理念やビジョンがしっかり浸透しているからこそ、共感する人が自然と集まってくるんですね。

岡田氏:
そう。僕たちが生まれた時代、日本にはまだそんなにモノがありませんでしたが、今の若い人は生まれた時から世の中にモノがあふれていますよね。だからモノに固執せず、「やりがい」などに価値を求めています。そういう、目に見えない「やりがい」があるという理由で来てくれるんですよ。

東大出て大手銀行に入社しニューヨーク支社に赴任という華々しい経歴から、うちに来てくれた社員がいるんですけど、給料4分の1ですよ。奥さんもいるのに落差大きすぎるだろうと思いますよね。でも、すごく楽しそうなんですよ。僕なら給料4分の1になったら、さすがに踏み出せないから、今の若い人ってすごいよね。

その方は、なぜ貴社に入社しようと思ったのでしょうか?

岡田氏:
ニューヨーク支店は本来ものすごく忙しいのだけど、コロナ禍でその忙しさがなくなって在宅になったときに、考えたというんです。「俺はこのまま銀行で働き続けるのかな」と。その人はもともとサッカーが好きで、FC今治もフォローしていました。その時、たまたまその時に社員募集の情報がでていたので、「これを逃してはいけない」と、すぐに応募したそうです。

短期的な採用だけでなく、中長期的にタレントを獲得するために潜在的なファンづくりに取り組んでいたからこそ、そういった人材の採用につながったのですね。

岡田氏:
うちは情報発信を重視していて、専門の人に入ってもらってnoteなどでも発信しています。FC今治が主導している「バリチャレンジユニバーシティ」というインキュベーションプログラムがあるのだけど、そこでの情報発信も色々としています。

僕もメディアには色々出るようにしています。今回も、新スタジアムの植栽のためのクラウドファンディングを始めたのですが、2日で590万円まで到達しました。そこで、「ほぼ日の學校」で公開した授業を見て、感動して支援したというコメントがあったんです。やはり、情報を発信することって大事だなと思いました。

採用面接で意識していることがあれば、教えてください。

岡田氏:
そういうの、全然分からないんだよ。僕は面接が苦手で、何を聞いていいのか分からなくて、いつも5分くらいで終わっちゃうの。それで社長に「岡田さん、真剣にやってください!」って怒られたんですよ。いや真剣にやっとるわって思うんだけど(笑)

だって、1時間話をしても、その人間のことはわからないじゃないですか。僕は長年人を見るプロだったけど、1時間じゃ絶対わからない。その人は、何かのご縁があって僕の前に座った。よほど直感的にダメじゃない限り、「こいつは何かの縁で来たんだ。起こることはすべて必要なことなんだ。もし能力がなくても、どうマネジメントするのかやってみろ」ということだと思います。だから、僕には採用の失敗はないんです。

そしたら社長が面接をする時に、「この後、会長の面接はものすごく短いかもしれません。でも、心配しないでください。あなたを気に入っていないわけではないですから」と、前もって伝えてくれるようになりました。

日本代表監督を経て築きあげられた、人を活かす哲学

自社の人材を活かす上で、工夫していることを教えてください。

岡田氏:
研修制度の整備などは、試行錯誤しながらやっているところです。それが必要だと痛感した出来事があってね。あるコーチをアカデミーダイレクターに任命したんです。すごくいい人なのだけど、管理職という立場になったら周囲の評価が気になってしまい、会社に来れなくなってしまいました。一度は「失敗したな、向いていなかったな」と思ったのだけど、それで済ませていいのかと。僕たちは彼に、管理職とはどういうことかを教えていなかったと反省しました。

監督時代は、選手全員のノートを作って、「この選手をこうしたい」「今日はこういう声を掛けた」「こういう練習を指示した」など、一人ひとりのことを真剣に考えていました。社員に対しても、それと同じくらい考える必要があるんです。

人材を活かすうえでは、人間関係の悩みも起こりえますよね。

岡田氏:
そういう問題が起こった時に両方の話を聞いてみると、「1つのことでも見る方向によってこんなに違うのか」と驚くことがあります。松山に本社がある会社の社長が、見る方向によって丸にも四角にも三角にも見える立体を見せてくれたことがあるのだけど、同じものでも見る人によって全然違う形に見えるんだよね。

社員同士、感情的にどうしてもうまくいかないことはあります。それはしょうがない。でも、その中でどうやっていくのかを考えないといけないんです。昔、文化庁長官だった河合隼雄さんからこういうことを言われました。「人をリスペクトするとか感謝するというのは、自分に自信がないとできないんだよ」と。その時は僕も40代半ばだったので、ピンとこなかったんですよ。監督同士で優勝したら相手に花を贈るのだけど、内心「このやろう次は絶対優勝してやる」と思っていました。でも50代半ばを過ぎた頃から、心から「おめでとう」と思って花を贈れるようになったんです。それは、自分がやってきたことを、人と比べてじゃなくて「自分にしかできなかった」という自信ができたから。その時、河合さんがいっていたのはこういうことかと思いました。

だから社員に言うんです。「カッとしたり嫉妬したりするのは、人間だから起こる感情。若いのならなおさら。それはしょうがない。でもその時は、自分に自信がないんだと思え。そしたらスーッと引くから」って。本当にそうだと思うんですよ。

信頼や共感がこれからの資本となる──岡田氏が目指す理想の組織とパートナーシップ

ここまで理念をもとにタレントを採用して活かすことについてお伺いしてきましたが、理念をもとに取り組んでいらっしゃるパートナーシップについても教えてください。

岡田氏:
最初のパートナーは、まだ四国リーグの時です。当時、胸スポンサーは120万円だったのですが、そこに5000万円をつけてくださったんです。それは、僕の夢に共感するという“共感スポンサー”でした。でも、決算書に「共感:5000万円」なんて書けないじゃないですか。会社の株主に訴えられるリスクを冒してでも、その金額をつけてくださったんです。

その時、広告露出価値でしかスポンサー料の金額を測れないようなら、いつまでたっても大きなお金は集まってこないと思いました。夢に共感してもらったり、社会を一緒に変える活動をしたり、本業に役立つことを一緒にできたり。「アクティベーション」というのだけど、一緒になって社会や事業の課題解決に取り組むことができる存在でありたいんです。

たとえば、今ユニ・チャームさんがトップパートナーになってくださっていますが、一緒に『みんなの生理研修』を実施しました。また、デロイト トーマツ コンサルティングさんが、うちのパートナーさん向けにコンサルティングのセミナーを開催したり、パートナー間のマッチングなども含めて、共有の夢や目標に向けた取り組みを進めています。

パートナーシップにおいても、信頼や共感を大切にされているんですね。

岡田氏:
うちはとにかく、企業理念に反することを絶対にしてはいけないんです。だから、信頼を失うようなことも絶対にしません。一昨年、コロナ禍でJリーグは4カ月間試合ができない時期がありました。その時、うちはJリーグの当時57チームのなかで、一番にチケット代を全額払い戻ししました。しかも、全員に対して現金書留で。というのも、土日の試合予定が、平日のナイターに変更されると、見れなくなる方もいます。「そんなのいいよ」と言ってくださるお客様もいらっしゃるのだけど、そこに甘えるのは違う。まずお約束が守れないので、そのお金は全額返します。そしたら、ファンになって買ってくださる方もいらっしゃいました。

そういう意味では、ピンチをチャンスにできることがあります。コロナ禍でみんなが気を付けている時期、うちの社長がお客様の前でボランティアスタッフに向けて「今日は東京からスポンサーが来るから、みなさんきちんとやってください」と言ったことがありました。それを聞いたお客様から、「県外から来る人に対してみんな警戒している時、お前のクラブは何を考えているんだ」とご指摘をいただいたんです。それも、すぐに謝罪文を出しました。「ご指摘、本当にその通りです。私たちは企業理念を忘れ、目の前のお客様よりも、売上に目がいってしまっていました。本当に気付かせてくださってありがとうございます。また応援していただけるよう、いい会社になっていきます」という趣旨で出したら、逆に反響がありました。

経営のノウハウはないけれど、なんとかここまでこれたのは、企業理念に基づいて誠心誠意、信頼を絶対に失わないことを基本としてやってきたからです。だから、これだけは絶対に外さないようにしています。

今後、岡田氏が挑戦したいことを教えてください。

岡田氏:
挑戦したいことが、次から次へと湧いて来て、体がもちません(笑)。色々あるなかで、ひとつは教育に本気で取り組んでいきたいと思っています。僕たちには夢があります。それは、今建設が進んでいる里山スタジアムに、新しいコミュニティをつくるという夢です。石を積んでいる人に「何をしているのか」と問うた時に、ただ「石を積んでいる」と答える人と、「素晴らしい教会を建てている」と答える人の違いは、夢があるかどうか。だから、絶対にこの夢を忘れてはいけないんです。FC今治で、衣食住を保証し合う共助のコミュニティをつくりたい。現在58あるJリーグのクラブ、そしてBリーグのクラブ全体でこの動きが広がり、県境や国境も関係ないコミュニティができれば、この国は変わるのではないか。そういう大きな夢を実現していくには、どうしても教育が必要となるんです。

新たな挑戦が広がるなかで、最後に社員の方や読者にむけてコメントをお願いします。

岡田氏:
社員に対して、僕から言うことはあまりありません。いつも考えているのは、社員が幸せに暮らせるような会社にしたいということです。僕たちのミッションステートメントのひとつに「社員に始まり、より多くの人たちに夢と勇気と希望、そして感動と笑顔をもたらし続けます」というものがあります。最初は、「社員にはじまり」という言葉はそこになかったのですが、やはり社員が幸せにならないと、周りの人も幸せにならないだろうと考えて、今の形にしました。

読者や関係者の方々に対しては、信頼を裏切りたくないという想い、それだけです。岡田は営業しない営業として有名で、「お金出してください」と言わなくても、夢を語って「一緒にやりませんか」と話すと、みなさん出してくださるんですよ。「これですか、岡田さんの営業しない営業とは。なんか出したくなりますよね」と色んな経営者にいわれるんですけど(笑)。そういった方々に、「やってよかった」と思っていただけるようにしたいです。僕を信頼して集まってくれて、信頼してお金を出してくれた。そういう人たちを絶対に裏切っちゃいけない。その想いが、僕のバイタリティです。

編集後記

なぜ、岡田武史氏の周りには、サッカーの枠を超えた多様な人が集まるのだろう?その疑問に対する答えが、このインタビューで明らかになった気がしました。夢を語るだけではなく、自らその実現のために動き、発信し、そして賛同した人たちの信頼を決して裏切らない。万が一にも失望させてしまった時には、全力でその回復に努める――それを続けているからこそ、目的を持った人が集まり、楽しくやりがいを持って日々を過ごすことができるのでしょう。

TalenXでは、中長期を見据えて会社を成長させるために転職潜在層から優秀なタレントを獲得する「タレントアクイジション」の概念を提唱しております。人事のみで外部依存した従来の採用を脱却して、全社員で採用に取り組み自社採用力を強化したいという方は、ぜひお声がけください。

監修者情報

監修 | TalentX Lab.編集部
この記事は株式会社TalentXが運営するTalentX Lab.の編集部が監修しています。TalentX Lab.は株式会社TalentXが運営するタレントアクイジションを科学するメディアです。自社の採用戦略を設計し、転職潜在層から応募獲得、魅力付け、入社後活躍につなげるためのタレントアクイジション事例やノウハウを発信しています。記事内容にご質問などがございましたら、こちらよりご連絡ください。

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