世の中が目まぐるしく動き、産業構造が大きく変化するなかでも持続的な成長を実現すべく、事業ポートフォリオ変革に取り組む企業が多く見られます。グローバルに事業を展開する化学メーカーの三井化学様も、従来の事業領域にはない分野にビジネスを展開するチャレンジをしていらっしゃいます。
これまでにはない領域に踏み出す時に大きな課題となるのが、専門人材の確保です。特に、人的資本経営時代の今、経営戦略と人材戦略の連動は不可欠であるため、各社優秀な人材獲得のためにしのぎを削っています。そうしたなかで、他社とバッティングしない採用として注目を集めているのが、リファラル採用やアルムナイ採用です。三井化学様は、TalentXのMyシリーズ(MyRefer・MyTalent)を導入し、“戦わない採用”に取り組んでいらっしゃいます。
本記事では、三井化学株式会社 人事部 人材グループ 採用チーム リーダー 櫨山義裕様と、人事部 人材グループ 採用チーム 坂本果奈様にインタビューを実施。三井化学様の採用戦略、リファラル採用で工夫していること、アルムナイで取り組んでいきたいことなどについて伺いました。
三井化学株式会社
従業員数:18,933人(連結 2023年3月31日現在)
事業概要:ライフ&ヘルスケアソリューション事業、ICTソリューション事業、モビリティソリューション事業、ベーシック&グリーン・マテリアルズ事業
人事部 人材グループ 採用チーム リーダー 櫨山 義裕 氏
人事部 人材グループ 採用チーム 坂本 果奈 氏
三井化学様のリファラル採用の取り組みに関するセミナー動画を無料公開中です!
下記から是非ご覧ください。
事業ポートフォリオの変革により採用職種が多様化──専門人材を獲得するため、キャリア採用を強化
まず、三井化学様の事業内容と方針について教えてください。
櫨山氏:
当社は総合化学メーカーとして、ライフ&ヘルスケアソリューション、ICTソリューション、モビリティソリューション、ベーシック&グリーン・マテリアルズの4つの領域でビジネスを展開しています。創業110年以上の歴史を持ち、「化学の力で社会課題を解決する」「多様な価値の創造を通して社会に貢献する」といった方針のもとに事業を展開しています。
事業を拡大するなか、採用する職種も広がっていると思いますが、採用方針についても伺えますか。
櫨山氏:
現在、長期計画に基づき事業ポートフォリオの変革を進めており、従来の事業領域にはなかった分野にもビジネスを拡大しようとしています。新たなビジネス領域に踏み出すには、これまでの当社になかったスキルや知見を持つ人材が必要です。そこで、多様な人材を確保するためにキャリア採用をさらに強化し、事業の成長につなげようとしています。
これまでの採用手法と課題を教えてください。
櫨山氏:
従来は、エージェントでの採用がメインでした。特にキャリア採用の強化を始めた2016年頃からは、お付き合いするエージェントの数も増やしていきました。しかし、それでも必要な人材確保は容易ではありません。そこでダイレクトリクルーティングや、自社採用ホームページによる採用など、採用チャネルの多様化を進めていったのです。
一方で、事業領域が多角化する中で新たな専門人材に対してリーチするためには既存の採用手法のみでは限界を感じていました。また、募集領域によっては三井化学の知名度があまり高くないため、採用競合とバッティングした際に負けてしまうケースもみられました。たとえば、当社は従来ICTに関連する素材の販売をしていたのですが、現在はその川下や周辺の領域にも事業を拡大しています。そこでは、半導体の製造装置エンジニアや、BtoCでのICT製品を作っている人材、電気・電子領域の知見がある人材の知見が必要です。ただ、そのようなスキルをお持ちの方々に、三井化学が新たな領域にも力を入れていることは知られていません。そういった課題を解決する必要がありました。
人的資本経営の潮流のなか、リファラルやアルムナイなどで採用変革を推進
リファラル採用をスタートした背景を教えてください。
櫨山氏:
先ほどの課題でもお話ししたように、一部の求人の採用ターゲットには当社の知名度があまり高くないという現実があります。そういったなかで専門人材にリーチしていくには、採用チャネルを増やしていかねばなりません。また、キャリア採用では以前から現場の社員より「こういう知人がいるので採用したい」という相談がありました。そして社員からの紹介で入社した方は、ミスマッチが低く、パフォーマンスが高いという傾向がありました。そういった背景から、これまでにない職種も含めてキャリア採用の人数を増やしていくには、リファラル採用が最適だと考えたのです。そして社員の協力を得るためには、しっかりと全社制度として仕組みをつくり、周知をする必要があると思いました。
リファラル採用に加え、アルムナイやタレントプール構築も進めていらっしゃいますが、その背景もお聞かせください。
櫨山氏:
一度退職した社員が戻ってくる“出戻り”のケースは、90年代からありました。当社は、退職した社員と比較的つながりはあるのですが、それは非公式で属人的なものでした。そうなると、ハブとなる社員が退職してしまえば、そのつながり自体がなくなってしまうこともあり得るでしょう。そもそも人材の流動性が高まっている時代ですから、今後は“出戻り”も増えてくる可能性があります。それならばアルムナイ制度として導入して、データもちゃんと管理しようということで始めることになりました。
Myシリーズ導入の背景について伺います。まずはMyReferを導入した理由についてお聞かせください。
坂本氏:
獲得が難しい人材を採用する際、転職潜在層にアプローチしていく必要があります。そしてICT業界など、エージェントでも採用しにくい領域や、当社の知名度が低い業界・職種の人材を採用するには、リファラル採用が効果的だと考えました。ただ、これまでは特に制度を設けず、相談が来た時に個別に対応していたため、改めて制度をつくる必要があったのです。TalentXさんには、リファラル採用制度の設計から一緒に取り組んでいただいたことから、MyReferのツールも導入することになりました。
アルムナイやタレントプールで、MyTalentを導入した背景もお聞かせください。
坂本氏:
一番の理由は、先に導入していたMyReferと連動して使えることです。たとえば、社内ニュースは退職者向けにも配信できるなど、利便性が高いため魅力的でした。また、当社に関心を持ってくれているかどうかをスコアリングできる機能も、入社の可能性の高い方にピンポイントでアプローチするために活用したいと考えました。
MyReferを導入されて1年ですが、実際に使ってみていかがでしたか?
坂本氏:
社内ニュースや求人公開など、全社の登録者に向けて通知を出せるため、継続的に興味を持ってもらえていると感じています。社内ニュースの内容も、求人を伝えるだけではなかなか魅力を分かってもらえません。そこで、「意外と知られていない採用の中身」など、読みたくなるようなトピックを立てて配信しています。採用について知ってもらったうえで、「いい人がいたら紹介してください」というきっかけづくりができる、非常に便利なツールだと思います。
転職潜在層に継続的にアプローチし、行動を起こすきっかけをつくる
リファラル採用は、どのように展開しましたか?
坂本氏:
導入当初は、リクルーターの数を増やすことに注力し、TalentXさんに相談しながら社員に登録してもらえるような施策に取り組んでいました。その結果、導入から1年経った今では、ある程度の登録数は確保できました。次は登録してくれた社員からの紹介数を伸ばすこと、決定率を上げていくことに取り組んでいる段階です。求人の閲覧は一定数あるものの、友人の紹介にはまだそれほどつながっていません。そこで、社内ニュースを最低月2回配信するようにしています。TalentXの担当者の方に配信コンテンツを相談しながら、有効な方法を検討しているところです。
リファラル採用促進にあたり、工夫していることをお聞かせください。
坂本氏:
特に採用が難しい職種については、個別で現場に仕事の魅力や求める人物像についてインタビューして、社内ニュースで配信しています。また、リファラル採用をあまり知らない社員にイメージしてもらえるように、実際にリファラル採用で入社した社員のインタビューを掲載し、安心して紹介してもらえるようにしています。
最近も、アルムナイの方のインタビューを社内ニュースで配信していらっしゃいましたね。
坂本氏:
そうですね。ちょうどMyTalentを導入するタイミングだったことから、MyRefer経由で再入社した社員に取材をしてニュース配信しました。
転職潜在層にアプローチしてみて、何か気付きはありましたか?
櫨山氏:
数年前と比較すると「転職潜在層」といっても、まったく転職を考えていない人は減ってきている印象です。頭の片隅には「いいところがあれば」という意識があったり、スカウトサービスには一応登録していたりと、常に複数の選択肢を持ってアンテナを張っている人は増えているのではないでしょうか。そのため、企業からアプローチをすることは有効だと思います。
そうすると、リファラルやタレントプールでの情報発信など、行動を起こすきっかけを与える取り組みが必要ですね。
櫨山氏:
キャリアに対する感度は高いはずですから、リファラルで「あなたに合うポジションを募集しているよ」と声を掛けられると、興味を持ってくれる人もいるはずです。だからこそ、リファラルやアルムナイなど、つながりを持っておくことが大事ですね。それが競合とバッティングしない、“戦わない採用”につながると思います。
経営戦略と連動した採用戦略を、データドリブンで推進
今後、Myシリーズをどのように活用していきたいですか?
坂本氏:
まずMyReferでは、採用数を伸ばすことが現在の課題です。そこで、先ほどお話ししたように、社内ニュースの定期的な配信や、興味を持ってもらえるようなコンテンツの配信により注力していきます。
MyTalentはまだ始まったばかりですが、過去の退職者や新卒内定辞退者など、それぞれの属性によって興味を持つ内容は異なるはずです。そのため、それぞれに合った情報を発信していきたいと考えています。その内容についても、引き続きTalentXさんに相談していきたいですね。
また紹介する側の社員が、当社の魅力についてもう一度知ってもらえるような仕掛けもしていきたいです。友人を紹介する時には当社の魅力を語ってくれているはずですから、色々な人の「こういう理由で紹介した」を集めてニュース配信でシェアすれば、会社の魅力の再発見につながると思います。
櫨山様は、今後の展望をどう描いていらっしゃいますか?
櫨山氏:
採用全体におけるリファラルの比率を増やしていきたいというのが、大きな目標です。Myシリーズではデータを活用できるため、採用にもDXを取り入れて、データドリブンで進めていきたいです。最後は人が決めるところはあると思いますが、その手前のスクリーニングや、誰にどうアプローチすべきか戦略を立てるところでは、データを活用して効率化にもつなげていこうと思います。そうすることにより、人と会って話すところにリソースを割いていきたいですね。
最後に、採用全体や組織開発における目標を教えてください。
櫨山氏:
経営戦略と連動した採用戦略は、常に意識して進めたいですし、経営に貢献する採用でありたいと考えています。それと同時に、会社としてチャレンジングな目標を掲げていますから、組織風土や文化の変革にも取り組んでいきたいです。より挑戦する文化をつくるべく、ダイバーシティを推進するなど、様々な施策が動いています。そうした風土や文化の変革においても、キャリア採用が果たす役割は大きいのではないでしょうか。外部から入社してくれた人材が活躍できるよう、オンボーディングやネットワーキングなど、入社後についても採用担当として積極的に支援していきたいです。
編集後記
三井化学様がMyシリーズを活用して取り組む“戦わない採用”についてお届けいたしました。
人的資本経営を進めるなかでは、採用も既存の手法にとらわれず、多様化していく必要があります。特に自社社員の友人・知人や、企業が過去に接点のあった退職者や内定辞退者などとのつながりを大切にする採用は、これから採用マーケットがますます活性化するにあたり、有効な手段です。
下記リンクでは、今回お話をお伺いした坂本様をお招きして、リファラル採用に注力した背景や、従業員への落とし込みに向けた具体的な取り組みを解説いただいたセミナーの「動画」を無料公開しております。
採用競合が多い中での母集団形成や採用決定率に課題をお持ちの方、リファラル採用を全社に浸透・促進したい方におすすめの内容となっておりますので、是非お役立ていただけますと幸いです。