労働人口の減少や第四次産業革命などにより人材獲得競争が熾烈を極めているなかで、昨今では人的資本経営への関心が高まっており、経営戦略に沿った優秀な人材を中長期で獲得する必要性が高まっています。こうした「企業の競争力」を高める持続可能な採用戦略が求められる状況において、企業の採用活動を変革する必要があります。
株式会社デンソーは2030年の長期方針として「地球に、社会に、すべての人に、笑顔広がる未来を届けたい」を掲げており、『環境』と『安心』を大義に、CO2ゼロ、交通死亡事故ゼロの“究極のゼロ”社会の実現に向け、『共感』いただける企業を目指されています。アイデアをカタチにし、世の中の新しいあたりまえを創る「実現力のプロフェッショナル」として、一人ひとりが進化し、挑戦を支えるための人事施策、「PROGRESS」を掲げて、人事改革に取り組んでいます。その変革の一環として、自社にマッチしたプロフェッショナル人財の採用や「仲間づくり」の文化浸透を目的に、2023年5月より、リファラル採用を本格導入・運用されています。
今回は、株式会社デンソー 人事部 採用室 キャリア採用課 塩田 聖子 氏をお招きして、自社の採用方針や採用課題、リファラル採用の導入背景、自発的にリファラル採用に取り組む社員を増やしながら進める浸透施策、決定者の紹介パターンや特徴などを具体的に語られた、好評のセミナー内容をご紹介します。
※当日の講演をより詳しくご覧になりたい方は、下記より「動画視聴」「レポートダウンロード」が可能です。
目次
- 登壇者紹介
- 採用市場動向と持続可能な採用の必要性
- デンソーのリファラル採用の取り組み
- パネルディスカッション
登壇者紹介

株式会社デンソー
人事部採用室キャリア採用課
塩田 聖子 氏
株式会社デンソーに新卒で入社、
人事-人財育成をキャリアの中心とし社員の能力伸展に携わる。
2021年よりキャリア採用へ異動し、リクルータおよび各採用チャネル強化を担当。

株式会社TalentX
MyRefer CS部 部長
清木 孝信
株式会社マイナビに中途入社。媒体営業として中途採用領域を担当し、大手企業向けの営業・企画部門の責任者として従事。
2018年より採用部門へ異動、中途採用領域を担当。
2021年に株式会社TalentX入社。大手企業向けのリファラル採用促進のコンサルティングや新規セールスを担当。現在はMyRefer CS部の部長として従事。
採用市場動向と持続可能な採用の必要性
採用競争が激化する日本の採用市場と転職潜在層アプローチの必要性
清木:
現在、日本では労働人口の減少が大きな問題となっています。総人口の減少は緩やかですが、特に若年層の労働人口が急減しており、これが企業の採用環境に深刻な影響を及ぼしています。
・労働市場の変動
労働市場の一例として、中途採用の有効求人倍率は2019年3月の1.2倍から2023年11月には2.7倍にまで上昇しました。これにより企業の採用難易度が上がり、中途採用の目標を達成できる企業は減少しています。2013年度上半期には62%の企業が中途採用目標を達成していましたが、2023年度上半期には39%にまで減少しています。
・転職希望者数と実際の転職者数
転職希望者数は2010年の618万人から2023年には1,000万人を超えましたが、実際の転職者数は同期間で、283万人からほぼ横ばいである328万人にとどまっています。このギャップが「転職潜在層」の増加を示しており、企業はこれらの転職潜在層をいかに採用に結びつけるかを考える必要性が高まっています。

時代の変化に応じた採用手法の必要性
清木:
従来の人材紹介や求人広告、ダイレクトリクルーティング、ハローワークといった外部のリソースを活用した採用手法ではなく、企業は自社のオウンドメディアやSNS、リファラル採用、タレントプール採用といった、自社のリソースを活用した「持続可能型の採用」を通じて転職潜在層にアプローチすることが必要になってきています。

転職潜在層へのアプローチ手段の1つとして、自社の従業員のつながりを生かして候補者の方をご紹介いただくリファラル採用が注目されています。次ページでは、リファラル採用の価値についてお伝えします。
リファラル採用の価値
清木:
リファラル採用の価値は主に以下4つです。
(1)転職潜在層から人材を獲得:転職市場に出てこない人材にアプローチができます
(2)定着率が高くなる:自社をよく知る社員からの紹介のためミスマッチの抑制につながります
(3)社員エンゲージメントが高くなる:社員が自社を語ることで自社への愛着・帰属意識を高めます
(4)採用コスト削減:広告やエージェントより安価に採用することができます
リファラル採用に取り組む企業は年々増加
清木:
2023年度に当社が実施した調査では、「約6割近い企業様がリファラル採用を実施している」「約7割の企業が、制度化していないものの、実際に社員からの紹介実績がある」といった結果がでています。年々リファラル採用に取り組む企業が増加している中で、当社にご相談いただくお悩みとして、リファラル採用の導入にあたり「制度化の進め方」 「工数懸念」「運用方法」などをいただく機会が非常に多いです。
本セミナーでは、デンソー様をお招きし、リファラル採用導入初年度の取り組みや、初年度対比3倍の決定数を目指して進められている本年度の取り組みを中心にお話を伺いました。

※出典
TalentX |2024年1月 「リファラル採用の業務状況に関する企業規模・業界別 統計レポート」
TalentX |2018年11月「リファラル採用の実務状況に関する企業規模・業界別 統計レポート」
デンソーのリファラル採用の取り組み
デンソーが推進する変革──社員のWillと会社のビジョンの両立を目指す
塩田氏:
デンソーでは人と組織のビジョン「PROGRESS」を掲げ、人事改革に取り組んでいます。「実現力のプロフェッショナル集団」の一員として「一人ひとりが情熱で自己新記録に挑むプロである」ことと、プロが出会い競争する舞台を提供していくことを掛け合わせて、提供価値をさらに大きくしていことを掲げています。

塩田氏:
その中で私たちは、「自ら学び、自ら考え、新たな価値の実現に向けて挑戦していく人材」を幅広く求めています。ビジネスを創造する事業実現力から、価値を世界中に届け切る、持続させるという量産実現力まで一貫して、willとプロ意識を持つ集団であり続けたいと考えておりますし、そうした思いに共感いただける方に入社いただきたいと思っております。

リファラル採用の強化背景
塩田氏:
リファラル採用を強化した理由は大きく2つあります。
1つ目は、転職潜在層へのアプローチです。ビジョンを実現していく上で、多様な人財を採用していく必要がありますが、従来の採用方法では限界が生じていました。既存の手法で転職顕在層にアプローチするだけではなく、転職潜在層の方にアプローチしていく上で、デンソーの企業文化や価値観に共感してもらえる人材を採用するためにはリファラル採用が有効だと考えました。
2つ目は、社員全体が一丸となって自ら仲間づくりを行う文化の醸成です。リファラル採用を通して、デンソーが重視している、「キャリア自律」という考え方を基に、既存社員の自己成長やキャリア形成の機会を創出する狙いがあります。社員が自らのキャリアビジョンを持ち、それを言語化するプロセスが重要であり、リファラル採用を通じて、自分自身を見つめ直し、キャリアを再発見することができると考えています。
このように、リファラル採用を新しい仲間の採用だけでなく、既存社員の成長とキャリア形成にも大きく寄与する手段として位置づけています。自ら仲間づくりをする文化が、既存社員の一人ひとりが自らのキャリアを切り開いていき、新しく入社する仲間の活躍推進や、共感をさらに生み出していくと考えています。

リファラル採用のリスタートを決意し、取り組みを開始
塩田氏:
これまでの取り組みについてお話しできればと思います。2023年度の初年度の取り組みと、初年度対比3倍の決定数を目指して進めている2024年度の取り組みについて、大きく3ステップに分けてお伝えします。

ステップ(1)全社員を巻き込む活動を決意
2016年からリファラル採用を制定していたものの、広報活動が形骸化しており、施策として動かしていくことができない状況でした。先ほどお伝えした強化背景から、2023年よりリスタートを掲げ、全社員を巻き込む活動をやっていこうと取り組みを開始しました。当時、リファラル採用制度を知っている人がごく一部になっていました。全社員が自社を紹介できる状態を目指し、リファラル採用制度を知らない大多数の方にまずはいち早く知ってもらい、その上でいつでも簡単に自社を紹介できるよう「MyRefer」ツールの導入を検討し、導入にいたりました。
ステップ(2)制度プロモーション
リファラル採用制度やMyReferのことを知ってもらうために、様々な角度から情報発信を行いました。
【実施施策例】
・採用実施部門への説明会を実施
-全採用関係者への説明会の実施、部門統轄を通して各部門メンバーに推進を依頼
・インセンティブ増額キャンペーン
-リファラル採用が話題になればと思い、期間限定で増額キャンペーンを実施
・社内外に対する広報活動
-社員紹介をより身近に、自分ゴトとして捉えてもらえるよう紹介・決定事例の共有を実施
-リファラル採用に取り組む背景や想いを、外部メディアから発信
ステップ(3)より身近な制度へ情報発信強化
2024年度は、昨対比3倍以上のリファラル採用決定を目指しています。注力指標として、制度参加者数と紹介率を掲げて、各部門と連携しながら活動しています。
【実施施策例】
・リファラル採用制度を一元化
-このサイトを見れば制度がわかる!といった情報サイトを開設
・他採用施策との連動
-社員のキャリア採用に対する感度を高めるため、社員へ採用イベントを告知

2023年度の成果と実際の紹介ケース
◎成果
初年度15名の決定が生まれました。通常のチャネルと比較すると、 数十名応募からなんとか1人決まるくらいですが、リファラル採用だと10人に1人決まっていくのは非常に大きい効果だなと感じています。

◎紹介ケース
リファラル採用だからこそ決定が生まれたケースについてご紹介します。
(1)社員のSNS投稿から決定が生まれた事例
社員が採用活動をLinkedInに投稿したところ、前々職の方から「実は今転職活動をしている」というメッセージをいただき、選考に進んでいただきました。すでに他社からの内定を持っていましたが、社員と話すうちに「デンソーならプログラマーとして第一線で活躍するビジョンが実現できる」と意向醸成され、選考期間2週間で意思決定いただきました。
(2)社員が自らデンソーで活躍できる知人を想起し、単独応募で決定した事例
開発設計を進める中で組織として強化すべきポイントが明確になり、「ここに前職の◎◎さんがいてくれたらすごく助かるな」と考え、自ら知人に声をかけてくれました。知人の方は、転職については漠然と考えている状態でしたが、実際に働く環境や仕事内容を聞くうちに、転職へのハードルが下がり、単独応募で内定承諾いただきました。
パネルディスカッション
リファラル採用を推進される上で苦労された点
清木:
リファラル採用をこれから強化していく方からすると、実際にどういったところで苦労されたのか気になる点かと思いますので、ぜひお伺いできますでしょうか?
塩田氏:
ここからが一番苦労するタイミングだと思っています。導入初年度はTalentXさんのご支援もあり、やるべきことをひとつひとつやってきて、基礎基盤はできたかなと思っています。ここから、初年度3倍の成果を目指してさらに加速させていく観点で考えると、戦略を考えるといった意味でも非常にリソースをかけて苦労していくポイントかなと思っています。
ただその分成果も大きい、非常に有効なチャンネルだと思っています。リファラル採用推進担当者1人で「やり切る」ということは間違いなくできないかなと思っています。新卒採用担当のメンバーでもいいですし、同じくキャリア採用をするようなメンバーと一緒に考えて広報したり、TalentXさんを頼ったり、何を部門の方にやっていただくかみたいなところを大きなチームとして捉えて、推進していくことが重要だと思います。
最も効果が高かった施策
清木:
1つは絞れないかもしれませんが、反響が大きかったという観点で効果が高かった施策についてお伺いできますでしょうか?
塩田氏:
反響が大きかったのは、実際の紹介ケースの事例紹介ですね。閲覧数も通常の4倍であり、かなり注目を集めた施策でした。リファラル採用をより身近に感じていただくことで、採用を自分ゴトとして捉えることにも繋がっていくと思いますし、新たな紹介を誘発していけるのかなと思っております。
塩田様から一言
塩田氏:
今回事例の紹介をさせていただきましたが、私たちもまだまだ道半ばで、リファラル採用に関してしっかりと自信を持って成果が出たという状態ではないと思っています。まだまだ私たち自身、学びを続けていかないといけない立場でございますので、皆さんも今後何かご参考になることがありましたら双方で共有させていただければと思っています。
監修者情報
監修 | TalentX Lab.編集部
この記事は株式会社TalentXが運営するTalentX Lab.の編集部が監修しています。TalentX Lab.は株式会社TalentXが運営するタレントアクイジションを科学するメディアです。自社の採用戦略を設計し、転職潜在層から応募獲得、魅力付け、入社後活躍につなげるためのタレントアクイジション事例やノウハウを発信しています。記事内容にご質問などがございましたら、こちらよりご連絡ください。






