従来、多くの日本企業は終身雇用制・年功序列型の人事制度を採用しており勤続年数に従って人事評価を行ってきました。しかし、1990年代のバブル崩壊以降「成果主義」の評価制度が導入されることが増え、どのような人事評価制度によって従業員の評価をすればよいのか各企業の頭を悩ませてきました。
人事評価制度は、従業員が自分の職務(仕事)をしていく中で発揮した成果や実績のパフォーマンスや能力、また企業への貢献度について評価を行い、報酬制度や等級制度といった従業員の処遇・待遇に反映させる評価制度のことをいいます。適正な人事評価を実施することは、社員の育成や定着だけでなく業績向上にも貢献することができます。
本記事では、人事評価制度の概要から導入の目的やメリット・デメリット、評価方法や導入手順などをご紹介していきます。
「人事評価制度」目次
- 人事評価制度とは
- 人事評価制度を導入する目的
- 人事制度における3つの評価制度
- 人事制度における3つの評価方法
- 人事評価制度を導入するメリット
- 人事評価制度を導入するデメリット
- 人事制度における評価手法
- 人事評価制度の導入手順
- 人事評価制度で目標設定をする際のコツ
- テレワーク・裁量労働制の場合におすすめの人事評価制度
- 従業員のエンゲージメント向上にリファラル採用(MyRefer)を活用しよう
人事評価制度とは
人事評価制度とは、従業員が職務を遂行するにあたり発揮した成果や実績といったパフォーマンスや能力、また企業への貢献度について評価を行い、報酬制度や等級制度といった従業員の処遇・待遇に反映させる評価制度のことをいいます。人事評価制度は適正に運用されることにより、人事管理と人材育成の両面において期待されています。
人事評価制度を導入する目的
人事評価制度を導入する目的には何があるのでしょうか?
ここでは人事評価制度導入の目的として3つをご紹介します。
- 処遇・待遇の決定
- 人材育成
- 人材活用
人事評価制度の目的① 処遇・待遇の決定
人事評価制度による評価を行うことで、従業員の処遇・待遇に関して客観的な指標に基づいて適正な人事評価をすることができます。
評価する際の基準や根拠を明らかにすることで、従業員の貢献度や能力について客観的に良し悪しを判断することができ、適切に従業員の処遇・待遇を決定することができます。
人事評価制度の目的② 人材育成
人事評価制度では、設定した目標に対する達成度合について評価を行うのが一般的で、人事評価と個々人の目標設定をうまく組み合わせることによって人材育成に寄与することも可能です。
また、人事評価制度の明確な基準に基づき評価がされることで、従業員のモチベーション向上や生産性の向上といった人材育成を期待することができます。
人事評価制度の目的③ 配置転換や人材抜擢などの人材活用
人事評価制度によって従業員一人ひとりの能力を適切に評価・把握することができ、各従業員が活躍できる職種やポジションがどこか、働きやすい環境やポジションはどこか、配置転換や人材抜擢をする基準として人材活用に役立てることができます。
人事制度における3つの評価制度
人事制度における評価制度にはどのようなものがあるのでしょうか?
ここでは、3つの評価制度について紹介していきます。
- 等級制度
- 評価制度
- 報酬制度
1.等級制度
等級制度とは、従業員を「職務」「役割」「能力」などに従って定められた等級に基づいて社内での位置づけを決める人事制度のことをいいます。
等級制度には、「職能資格制度」「職務等級制度」「役割等級制度」などの種類があり、会社のフェーズや状況に合わせて適切なものを選定する必要があります。
また、たいていの会社には役職制度がありますので、この役職制度と等級制度をいかに連動させるかが重要なポイントとなります。
2.評価制度
評価制度とは、人事制度の評価基準に応じて評価を行い、その評価を等級や報酬に反映させる制度のことをいいます。
人事評価制度には、「MBO」「職務評価」「役割評価」「成果評価」「コンピテンシー評価」などの種類があり、等級制度同様、会社のフェーズや状況に合わせて適切な手法を選択する必要があります。現在国内で多く採用されている評価手法は「成果評価(業績評価)」であるといわれています。
3.報酬制度
報酬制度とは、「等級制度の等級」と「評価制度の成果」に基づいて従業員の給与・賞与などの待遇を決める人事制度のことをいいます。
報酬制度には、「年功制度」「職能資格制度」「職務等級制度」「成果主義制度」などがあり、企業によってさまざまな項目で評価され報酬が決定されます。
人事制度における3つの評価方法
人事制度における評価方法にはなにがあるのでしょうか?
人事評価制度における評価方法として「業績評価」「能力評価」「情意評価」の3つについて紹介していきます。
人事評価方法① 業績評価
業績評価とは、一定期間中における業務の成果やパフォーマンスに基づいて従業員を評価することをいいます。
業務の最終的な成果(数字)に対して評価をすることが多いので、他評価方法に比べて成果が目に見えやすく評価しやすいといったメリットがありますが、プロセスを評価しづらい点や、外的要因による成果の良し悪しを考慮しづらい点がデメリットとして考えられるでしょう。
人事評価方法② 能力評価
能力評価とは、個々人の職務に対する遂行能力を評価することをいいます。
業績評価では外的要因による影響によって評価しづらいことがデメリットとしてあげられていましたが、能力評価では外的要因による影響を受けづらく、従業員個々人を能力によって正確に評価しやすいといったメリットが考えられます。
人事評価方法③ 情意評価
情意評価とは、仕事に対する意欲や姿勢について評価する手法のことをいいます。
情意評価の特徴としては、業績評価、能力評価に比べて具体的な数字や結果だけでなく、目に見えない・見えづらいものを評価することにあります。意欲や姿勢など定量的な成果以外を評価してもらえることは従業員にとって嬉しいこともありますが、目に見えづらい部分を評価するので評価者の主観に左右されてしまうことが多く、従業員によっては公平な評価をされていないと感じてしまうことも考えられます。
人事評価制度を導入するメリット
人事評価制度を導入するメリットにはどういったものがあるのでしょうか?ここでは人事評価制度の導入によって得られる「スキル把握・人材管理」「モチベーション向上・生産性向上」の2つのメリットについてご紹介します。
人事評価制度のメリット① スキル把握・人材管理
人事評価制度を導入することで、定期的に従業員一人ひとりのスキルや能力を評価・把握することができるため、自社の人材データを収集することができ、スキルやノウハウ、経験などを管理・活用しやすくなることが期待できます。
また、評価の過程で個々人の課題が可視化されることによって、ジョブローテーションや研修などを利用して人材開発を行うことができ、人材管理・開発にも有用であるといえるでしょう。
人事評価制度のメリット② モチベーション向上・生産性向上
人事評価制度を導入することで、成果やパフォーマンスによって給与や賞与といった処遇が決定するため、評価に対して納得感のある従業員に関してはモチベーション向上、生産性向上が期待できるでしょう。
「頑張った分だけ評価される」と従業員が認識することで、自発的な業務改善が促され、「成果→評価」という良いサイクルが生み出されることが期待できます。
人事評価制度を導入するデメリット
人事評価制度を導入するデメリットにはどういったものがあるのでしょうか?ここからは人事評価制度の3つのデメリットをご紹介します。
評価対象外のスキル開発が滞る
人事評価制度を導入することで、従業員は評価対象の業務や数字を中心に尽力することになりやすく、型にはまった人材を生み出しやすくなります。
また、人事評価項目に該当しない領域に興味関心や得意分野を持つ人材は、活用のチャンスや機会が失われやすく対象のスキル開発が滞ったり、本人のモチベーション低下につながることが考えられます。
評価対象外の業務が後回しになる
上記同様、人事評価制度の導入によって、従業員は評価対象の業務や数字を中心に尽力することになり、企業や事業にとって優先順位の高い業務であっても、人事評価対象外の業務に関しては後回しにされてしまうリスクが考えられます。
モチベーション低下・生産性低下
人事評価制度を導入するメリットで「モチベーション向上・生産性向上」の紹介をさせて頂きましたが、評価に対して従業員の納得感がない場合は逆にモチベーション低下・生産性低下を引き起こす可能性があります。この場合「低評価→モチベーション低下」の負のスパイラルに陥ってしまい当人の退職や周囲の従業員のモチベーション低下まで引き起こす可能性があります。
人事制度における評価手法
人事制度にはさまざまな評価手法がありますが、その中でも有名な4つの人事評価手法について紹介していきます。
MBO(目標管理制度)
MBO(目標管理制度)とはManagement By Objectivesの略で、個々人またはグループごとに目標を設定してもらい、それに対する達成度に応じて評価を決定する制度のことをいいます。
MBOではY理論に基づいて、魅力ある目標設定をすることで従業員が自主的に業務に取り組むような設定をすることが多く、従業員個人の考えが反映された目標設定にすることができればモチベーション向上や生産性向上につなげることができるでしょう。
OKR(目標と主な結果)
OKR(目標と主な結果)とはObjective and Key Resultの略で、企業や部署の目標と個々人の目標を紐づけて、目標策定、評価をする管理手法のことをいいます。
OKRでは企業や部署などの組織と個人の目標が紐づくことで、チーム全体が同じ方向にベクトルを合わせることができます。また、組織と個人のベクトルが合うことによってチームや個人が取り組むべきタスク・業務が明確になり、従業員が納得感をもって業務に取り組むことができるようになります。OKRは組織の目標に個人の目標が紐づくため、個々人の目標が高いものになる場合が多く従業員側に強いストレスがかかることもありますので注意が必要です。
コンピテンシー評価
コンピテンシー評価とは、社内で高い成果や業績を残している社員の行動特性(コンピテンシー)を評価の基準として従業員の人事評価に用いる方法です。
コンピテンシー評価は行動特性が評価の基準になっているので、定量的な結果・成果だけでなく、そこに至るまでのプロセスや行動も評価するため、従業員が評価に対して公平性や納得感を感じやすいことが特徴です。
だたし、コンピテンシー評価に必要な、モデル設定・特性の抽出・評価項目設定などの工程には多くの時間を要すため、アップデート・メンテナンスが困難であり、「基準」を作ることの難易度が非常に高いことがデメリットです。
360度評価
360度評価とは、評価対象者の上司や部下など360度さまざまな立場の人が評価をする制度のことをいいます。
従来のような上司から一方的に評価される制度と違い、同僚や部下といった複数の視点から評価を行うことで公平性や客観性をもって評価をすることができます。
さまざまなメリットがある一方、評価者である部下を厳しく教育できなくなる可能性があったり、社員同士が遠慮してしまい厳しい評価がつけづらいといったデメリットもあります。
人事評価制度の導入手順
人事評価制度を導入する際には、導入の目的を明確にし手順を追って進めて行くことが重要なポイントです。ここでは、人事評価制度の導入手順を詳しく解説していきます。
目的の設定
人事評価制度の導入によって何を目指すのか?自社が求める理想の状態を「目的」として設定しましょう。企業理念やMVV、クレドや中長期の経営計画に合わせて設定できるとよいでしょう。
評価制度の検討・選定
MBO(目標管理制度)、OKR(目標と主な結果)、コンピテンシー評価、360度評価などさまざまな評価制度から、MVVや現状の課題を再確認したうえで何が適切か検討し選定していきましょう。
自社に合う評価制度を選定できているか?今後無理なく運用していけるのか?事前に確認・把握したうえで進めていきましょう。
評価基準、評価項目の検討・選定
決定した評価制度に合わせて、評価基準や評価項目を検討・選定していきましょう。
等級制度と照らし合わせながら各等級の評価基準や評価項目を選定し「目的の設定」が達成されるように選定をしていきます。
処遇・待遇に関する規定作成
評価に対して従業員の給与や賞与をどのように反映するか規定を作成する必要があります。等級制度と評価項目・評価に応じて適切に規定を作成しましょう。
人事評価システムの導入検討
人事評価制度に関するシステムの導入検討を行いましょう。Excelやスプレッドシートなどで運用することも可能ですが、人事評価には多くの工数がかかることが想定されますので、自社の状況に合わせて人事評価システムの導入を検討しましょう。
人事評価制度の周知、運用開始
社内での説明会や社内広報等で従業員へ向けての周知を行いましょう。従業員の待遇に関わる非常にセンシティブなものですので、どういった背景で今回の人事評価制度が策定されたのか、詳細の説明をするようにしましょう。
人事評価制度で目標設定をする際のコツ
人事評価制度で目標設定をする際にどんなことに気を付ければよいのでしょうか?
人事評価制度を運用する中で、各従業員の目標を設定する際の重要なポイントをご紹介します。
定量と定性の評価基準を使い分ける
定量評価は、「売上」や「成約件数」といった具体的な数値の評価には向いていますが、目に見えづらいものの評価には不適切です。
定性評価は、「能力」や「行動」といった目に見えづらいものの評価に向いていますが、売上や成約件数といった目に見えるものの評価には不適切です。
定量評価・定性評価ともに、どちらか一方の手法のみで評価しようとするとうまく測れない要素が出てしまいますので、公正な人事評価をするためにはできる限り両者を組み合わせて評価をすることが重要です。
絶対評価と相対評価を使い分ける
絶対評価では、具体的な評価基準が決まっており、相対評価に比べ評価された側が納得しやすいものになっています。しかし、景気やトレンドなど大きな外的要因によってチーム全員が達成・未達成になる可能性もあります。
相対評価では、大きな外的要因の影響を受けづらく、評価者が評価をつけやすいというメリットがありますが、人の異動によってチーム内の順位が変動したり、未経験者を評価しづらかったりといったデメリットが考えられます。
複雑な要因が絡み合ってくるため、すべての従業員が納得できる人事評価制度の作成は難しいでしょう。重要なのは精度の高い評価基準を作ることではなく、各評価方法の特徴を理解して柔軟な人事評価制度を設けることが重要だといえるでしょう。
テレワーク・裁量労働制の場合におすすめの人事評価制度
働き方改革の推進などによりテレワークや裁量労働制といった多様な働き方が増えてきています。下記ではこれらの労働形態に合わせた人事評価制度のご紹介をしております。
テレワークにおすすめの人事評価制度
テレワークによって従業員が社外で業務をしている場合、対応している業務や勤務実態を把握することが難しく、プロセス重視の人事評価制度は適さない可能性が高いでしょう。
テレワーク等社外で業務をしている従業員の人事評価をする場合は、明確な成果目標を設定するような人事評価制度を適用することがよいでしょう。
裁量労働制におすすめの人事評価制度
裁量労働制に関しては業務の進め方や業務時間など、プロセスに関わる部分は当人の裁量で進めるものであり、プロセスを評価するような人事評価制度は適さない可能性が高いでしょう。
業務の成果に対して明確な評価や処遇を設定することが重要だといえます。
従業員のエンゲージメント向上にリファラル採用(MyRefer)を活用しよう
企業が成長できるかどうかは従業員のエンゲージメントを高め、働きやすい環境を整えることが重要だとされています。人事評価制度は自社に合った適切なものを設計・運用することで従業員のモチベーション向上やエンゲージメント向上に大きく寄与することができるひとつの手法だといえるでしょう。
リファラル採用はエンゲージメントの究極施策であり、従業員はリファラル採用を通じて改めて自社の魅力に気づき、社内外にその思いが伝播していきます。「リファラル→エンゲージメント向上」の良いスパイラルを作ることができれば、企業の成長に大きく寄与できるのではないでしょうか?
TalentXではエンゲージメント向上や採用のミスマッチ解消に向けたリファラル採用の支援を行っており、社員の方々が簡単に楽しく自発的に友人紹介ができるよう、クラウドサービスの提供とリファラル採用に対するコンサルティングを行っております。是非お気軽にお問い合わせください。
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監修 | TalentX Lab.編集部
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