人材獲得競争がますます激しくなる中、採用マーケティングの有効な一手として「過去応募者」へのスカウトが注目されています。
従来は、一度選考してご縁がなければ終わりという”掛け捨て型”の採用活動が一般的でしたが、雇用の流動性が高まる中では再度企業からスカウトを送ることや候補者から再応募するケースが出始めています。
一方で、日本ではまだまだ候補者リストを資産に変えて戦略的に採用マーケティングを実施している会社は少ないのではないでしょうか。今回は、過去応募者へのスカウトの是非とともに、掘り起こしでの採用を成功させるコツをご紹介します。
過去応募者へのスカウトが、採用マーケティングの有効な一手に
過去応募者へのスカウトは、過去選考して辞退や不採用になった候補者についてデータベースを構築し、再度スカウトを送るという採用マーケティング活動です。日本では新卒一括採用で、新卒採用時に獲得した何千人の応募データはすべて掛け捨てになっていました。一度ご縁がなければ一切アプローチしないのが業界の当たり前だったのです。しかし、営業でいうと失注した企業のリストを蓄積し、再度アプローチし続けることは当たり前です。
昨今は採用市場でどんどん有効求人倍率が上がっています。DX化の推進やジョブ型雇用へのシフトも背景に、特にIT人材などの専門人材は10社からオファーをもらうことも少なくありません。採用競合が多くなるとどうしても給与などの条件面ばかり比較され、負けてしまうこともあるでしょう。
そんな中、他社とバッティングせずに転職潜在層から採用する最も効果的な手法として、過去お会いした応募者へのナーチャリングに注目が高まっているのです。「初めまして」でお互いを理解することや口説くことは難しいですが、過去の応募者でいうと企業側も候補者のスキルや人柄を知っていますし、候補者も選考を進むなかで会社のことを理解しているので、単願で意向の高い状態から選考がスタートできます。
そもそも、過去応募者へ連絡してもよいのか?
そもそも、過去応募者への連絡は”アリ”なのでしょうか。2022年に会社員500人に調査した結果、「一度ご縁がなかった会社からのスカウトを約9割の人が歓迎する」ということが明らかになりました。求職者側のニーズがあるため、前向きな取り組みとして考えられるでしょう。
また人事の方が最初に心配するのが「個人情報」の観点です。まず、企業によって個人情報の取り扱いが定められているので、そのポリシーに沿って運用する必要があります。会社によっては過去応募者のデータを採用目的で活用できるところもありますし、3年で破棄することにしているケースもあります。また、候補者から連絡をお断りされたときには、もちろん配信停止や削除対応をすることが求められます。
それらをふまえつつ、候補者リストを資産に変えて、活用していくことをおすすめします。
過去応募者の掘り起こしをするメリット
1.転職潜在層から単願で優秀な人材を獲得できる
ますます人材獲得競争が激しくなるなか、採用担当者は、今転職活動をしている転職顕在層のみでなく、転職潜在層にもアプローチしていくことが求められます。
過去応募した人へのアプローチでは、転職活動有無に関わらず連絡をします。連絡時の候補者と企業の間柄は、見ず知らずの関係ではなく、一度選考で話してお互いに理解しているところから始まるので、意向の高い状態で声をかけることができます。
2.候補者体験(CX)を見直すきっかけになる
これまでは過去の応募者に連絡することがなかったので、一度選考活動をしたらそれで終わりでした。そのためなぜ辞退されたのか、なぜ興味を持ってくれたのかが分からない状態でした。
改めて過去応募者に連絡することで、当時の候補者体験に関する情報が手に入り、採用活動のPDCAをまわす機会になります。
3.採用マーケティング力が身につく
過去応募者に連絡をするということは、外部の人材紹介会社にお任せして推薦を待っているだけではなく、自ら転職潜在層に知恵を使ってアプローチをして応募意思を獲得するということです。まさに採用マーケティングそのものです。
そういった活動を通じて、中長期で自社採用力が高まり、先進的な人事部へと進化することができるのです。
まだ過去応募者への再スカウトに踏み切れない理由
過去応募者の掘り起こしはメリットが多いですが、まだまだ実行している会社は多くありません。あらゆる人事担当者と話すなかで、実行できていない理由は下記のようなケースが多いそうです。
- 過去辞退した人や不採用になった人から、再応募されないと思っている
- 過去辞退した人や不採用になった人に再度連絡するのが気まずい
- 個人情報の取り扱いの方針でデータが残っていない
心理的ハードルが高いようですが、前述したように過去応募者の約9割は再度もらえるスカウトを嬉しいと思っています。候補者は選考が進む中でその会社のことを好きになっていくことが多いのです。実際に当社で検証したところ過去応募者からのスカウト返信率は20%ほどありました。
まだ注力している企業が少ないからこそ、先んじてトライしてみることをおすすめします。
過去応募者の掘り起こしを成功させるコツ
それでは、実際に過去応募者の掘り起こしを行うときには、どう実行していけばいいのでしょうか。通常のスカウトと異なる点をふまえつつ、成功させるコツを4つご紹介します。
1.タレントデータ管理
過去応募者に再度スカウト連絡をするときには、「なぜあなたなのか」が伝わるパーソナライズされたメッセージが求められます。そのためには、名前や経歴のみのタレントデータではなく、選考時の辞退理由や評価メモをセットで残しておくとよいでしょう。
データのクレンジングにはかなり工数がかかるため、いかに抜けもれなく効率よく貯めていくかがポイントになります。選考を辞退する連絡が来たときにCXアンケートに回答してもらい、そこで個人情報の許可を取ってタレントデータに登録してもらうなど、通常の採用オペレーションのフローに組み込むことをおすすめします。
2.スカウト内容
候補者ごとに過去辞退・不採用になった理由は異なります。例えば、前職に残ることになったのか、よりポジションの良い会社を選んだのか。スキルを評価しているのか、人柄を評価しているのか。そのような辞退理由や評価メモをもとに、パーソナライズした文面でメッセージを送ることが重要です。
例えば、
「前回は条件面でご縁がなかったですが、この度当社としては~~事業の変革のタイミングで〇〇さんに~~のポジションでぜひ参画いただきたくご連絡しました。〇〇さんの~~というスキルを評価しており、~~」
といった文章を考える必要があるでしょう。
通常のスカウトとは異なり、「初めまして」ではなく「ご無沙汰しております」から始まることも大きなポイントです。候補者は数ある企業から無数のスカウトを受け取っているので、そのなかで差別化できる内容を検討しましょう。
3.スカウト時期
新しい会社に転職したばかりだと、すぐに転職意向は高まりません。少なくとも1年は空けて連絡するのがよいでしょう。実際に、いつ転職意向が高まるかは分からないので、定期的にコミュニケーションを取り続けることをおすすめします。
4.スカウトを送る方法
上記スカウト内容・時期とも関連しますが、誰からどうアプローチするかを戦略的に考えることが重要です。例えば、過去に最終面接まで進んだエキスパートクラスの人材に対しては、代表からトップメッセージを送ることも有効でしょう。
一方で、若手第二新卒クラスの人材に対しては、パーソナライズしすぎた文面ではなく、一斉メールで最近の状況のお伺いと自社の求人ポジションやニュースを案内することも有効です。一斉メールと個別アプローチをうまく使い分けながら掘り起こしをしていきましょう。
過去応募者の掘り起こしの事例
実際に過去応募者の掘り起こしに成功した当社の事例を一つご紹介します。
50名の過去応募者のデータベースにメールを配信したところ、返信率は20%という驚きの高さでした。その中で50名にスカウトした中で1名の採用決定につながりました。
具体的には、過去2020年に応募して選考を受けていた大手人材会社で働いていた方が、当時はご縁がなくマーケティングツールの会社を選びました。そこから当社で採用×マーケティングツールの新規事業を始めたなかで参画してほしい旨をメッセージとして連絡したところ、ちょうどタイミングもよく返信を頂けて採用につながりました。
このように新たな職種やポジションが発生したときに、ただ社外で新規募集をかけて待つだけではなく、過去の応募者のつながりの資産から見つけてアプローチすることが効果的な採用手法の一つになると言えるでしょう。
過去応募者の掘り起こしにおすすめのサービス
過去応募者の掘り起こしに活用するツールとしては、メルマガサービスやMA(マーケティングオートメーション)や採用版のMAサービスなどが考えられます。
メルマガサービスは、「SendGrid」や「Mail Chimp」などがあります。それらは、毎回メルマガ登録者に対してコンテンツを作って配信する、メールマーケティングに特化しています。そのため、人材ごとのファン度合いを可視化してPDCAを回すような機能はあまりありません。
MA(マーケティングオートメーション)は、「Hubspot」や「Marketo」などがあります。こちらは大量のハウスリストに対して配信して分析することができます。ただマーケターが活用するものとして非常に複雑なため、相応のスキルが求められます。
最後に採用版MAサービスは、国内では「MyTalent」のみです。採用担当者が使いやすいUIUXで設計されています。採用候補者のリストに、適切にメールマーケティングを実行していくことができます。CXサーベイも自動で送ることができるので、過去の選考時の辞退理由や評価などのメモを残しながら、個々人のファンスコアを分析してアプローチできることが特徴です。
候補者リストを資産に変える。採用マーケティングを始めよう
今回は、採用マーケティングの有効な一手として「過去応募者へのスカウト」についてご紹介しました。
雇用の流動性が高まる中では、過去応募した企業から再度スカウトが来ることを好意的に捉える候補者が増えています。一方で日本ではまだまだ候補者リストを資産に変えて戦略的に採用マーケティングを実施している会社は多くありません。
今回は参考資料として、過去応募者に対して再アプローチする際に、成功させるポイントや実際のスカウト活動で活用できるサンプル文面、再アプローチ活動における問題点と解決方法をまとめて紹介する資料をご用意しています。
今回ご紹介した掘り起こし成功のコツをもとに、過去応募者へのスカウトを進めてみてはいかがでしょうか。