労働人口が減る中、社外から新しい人材を獲得するだけではなく、社内の人材の従業員エンゲージメントを向上させることは人事部の喫緊の課題になっています。
従業員エンゲージメント向上のために、まずはエンゲージメントサーベイを取り、そして課題をもとに人事制度を整えたり社内交流を促したりする企業が多いでしょう。しかし、実はリファラル採用に従業員みんなで取り組むことがエンゲージメント向上に有効だと言われています。
今回は、これからの従業員エンゲージメントの高め方の一つとなるリファラル採用についてご紹介します。
従業員エンゲージメントとは
もともとマーケティングの分野では「エンゲージメント」という言葉がよく用いられてきました。エンゲージメントとは、「企業や自社ブランドに対する消費者の深い関係性」です。単に認知してもらうだけでなく、愛着や共感をもってもらうことを指します。
海外では“Recruiting is Marketing”という考え方が浸透し、人事の分野にもマーケティングの概念が用いられるようになりました。その一つが従業員エンゲージメントです。
従業員エンゲージメントとは、「企業と従業員が信頼し合い、互いに貢献し合う概念」です。会社と個人の関係性が変化する中、企業の業績向上に大きな影響を与える概念として注目が高まっています。(2017年に発表されたHarvard Business Reviewによると、EXを充実させるために投資をしている企業の方が、そうでない企業に比べて4倍もの利益を創出していることが分かっています。)
従業員エンゲージメントの重要性が浸透してきた背景
従業員エンゲージメントは、どのように人事部門に浸透してきたのでしょうか?背景には、労働人口の減少や経済の成熟化により経営の不確実性が増したことが大きく関係しています。
かつて高度経済成長期には、企業は従業員に対して終身雇用や年功序列の昇進を約束することで、労働人口を確保して成長を続けてきました。このときは、企業と従業員が主従関係にあり、「ロイヤルティ」を高めることが重要とされてきました。
しかし、労働人口が減少し経済が成熟化してきた今、経営には働き方の多様化やダイバーシティを受け入れながら、一人ひとりの生産性を上げて新しいイノベーションを生み出していくことが求められるようになりました。
「企業と従業員の新たな関係性」を構築するために「従業員エンゲージメント」という概念が重視されるようになったのです。
従業員エンゲージメントを構成する2つの要因
従業員エンゲージメントはアメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーズバーグが提唱した二要因理論の「動機付け要因」と「衛生要因」から構成されます。従業員エンゲージメントを高めるために福利厚生を整える、賃金制度を改定するといった話を聞くこともありますが、そのような要素はエンゲージメントを下げないために必要な“衛生要因”と呼ばれるものです。
実は、エンゲージメントを高めるうえで重要なのは、よりソフトな部分である動機づけ要因です。具体的には、①企業の理念やバリューの浸透、②従業員への成長機会の提供、そして③当事者意識の醸成が重要になります。
従業員エンゲージメント向上への施策~これまでとこれから~
それでは、このようなエンゲージメントのソフトの要因(動機付け要因)をどうやって高めていけばよいのでしょうか。従業員エンゲージメント向上施策のこれまでとこれからをご紹介します。
これまで
これまでの従業員エンゲージメントの考え方は少し抽象的なものでした。従業員に対して、エンゲージメントサーベイを取り、その回答結果をもとに改善施策を行っていくことが多かったのではないでしょうか。
「やりがい」や「当事者意識」といった抽象的な概念について、本当に効果があるか分からない部署間交流を増やしたり、人事制度を改変したりということをやってきたかと思います。
また、従業員の満足度向上を目的にした具体的施策として賃金や福利厚生などの制度設計を行ってきた企業が多いかと思います。前述の通り、そういった衛生要因に対するアプローチはエンゲージメントを下げない(不満を取り除く)ためのもので、時間が経過すれば従業員にとっても「あって当たり前、無くなれば不満が出る」という、本質的にエンゲージメントを向上させるための施策ではありませんでした。
これから
これからの従業員エンゲージメントは、従業員体験価値とセットで考えるのがよいでしょう。終身雇用・年功序列の文化から時代は変わり、従業員一人ひとりの志向性もどんどん多様化が進んでいるなか、エンゲージメントに影響のある体験価値自体をデザインする必要が出てきています。
それは従業員体験(エンプロイー・エクスペリエンス)と呼ばれるものです。あくまでエンゲージメントは結果であり、その原因となる体験価値を高めることが重要なのです。
従業員体験価値からアプローチを行う理由は、人事担当者が会社の認知(ブランディング)から入社、研修、面談、業務、福利厚生利用、異動、退社までの各タッチポイントにおいて従業員体験に介在できるからです。
そのために、入社前から今に至るまで、どのような体験が従業員にとっての価値につながるのか、より具体的に考えていくことが求められます。
従業員体験価値を高めることが、リファラル採用の大きな効果
従業員体験は、選考を受けて入社するところから、会社に定着して、活躍して、昇進・異動して、退職するまでの一連の流れを指します。
そのような従業員体験の一つひとつをよりよいものにすることで、会社への愛着が高まり、貢献しようと思うエンゲージメントに昇華するのです。
リファラル採用は、数ある採用手法のなかで唯一、従業員体験に影響を与えます。まず、入社前に友人からリアルな声を聞いていることで入社後のミスマッチがなくなります。また選考中も、紹介者の“お墨付き”があることで、経歴や書類だけでは分からない本質的なポテンシャルを引き出してもらいやすくなります。
そして、入社から定着までのフェーズでは、紹介した友人が自然と気にかけてくれるので、組織になじみやすくなります。新しい職場に聞きたいことを気軽に聞ける存在がいるのは、特にこのテレワークの時代にはとても心強いでしょう。最後に、その会社で働くなかで次は自分がリクルーターになり、会社のことを友人に語るなかで組織への愛着が高まります。
リファラル採用を実施するということは、社員が会社の経営資源(人的資源)に関わるミッションに携わることになります。自社を友人に紹介するために、会社の成長やビジョンについて考えたり、自分自身の気づきや成長、キャリアの棚卸しをしたりするきっかけに繋がります。友人紹介の活動自体が会社への当事者意識や愛着を向上させるきっかけにもなるのです。
実際に、エンゲージメントの高い企業こそ、採用人数のリファラル採用比率が高いと言われています。日本においてはメルカリ社、海外ではGAFAMなどは5割近くをリファラル採用で確保しています。これらの企業は、リファラル採用を通じて従業員体験の価値を高め、文化やビジョンを浸透させ、エンゲージメントの高い強固な組織を築いているのです。
リファラル採用とエンゲージメント向上による”愛着のスパイラル”
実際に、リファラル採用が従業員エンゲージメントを高めることは研究結果でも明らかになっています。リファラル採用研究所が2021年9月に1,532名を対象に実施した調査結果によると、リファラル採用とエンゲージメント向上を推進していくとポジティブなスパイラルが回ります。
リファラル採用で紹介した友人が入社することで、一緒に働ける仲間ができて喜びを分かち合い、会社への愛着が高まります。2021年5月に実施したリファラル採用の紹介社員調査で「知人や友人に自分の会社を紹介してよかったと思う理由」の結果調査をしたところ、「友人のキャリアサポートができたから」「友人と一緒に働けることが嬉しいから」と回答した社員が65%を超えています。
そして会社への帰属意識が高まることで「紹介しよう」という気持ちが生まれるので、次の紹介にもつながります。このように愛着のスパイラルが生まれるため、ファン社員を巻き込んでリファラル採用をすればするほど、エンゲージメントの高い組織を作ることにつながるでしょう。
従業員エンゲージメントを向上させるためのリファラル採用の取り組み
背景理解と継続的な認知を促す
リファラル採用を浸透させるためには、自社の募集求人を社員に展開するだけでなく、自社がリファラル採用に取り組む背景をしっかり伝えることが重要です。経営目線から意義を落とすことで、採用に携わる意義や当事者意識を向上させるきっかけにもなります。
社員が会社に共感や愛着を持ってくれるようなコミュニケーションを実施する
社員が会社に共感や愛着を持ってもらうために、意識すべきコミュニケーションプランも紹介します。
インセンティブ報酬制度は、あくまでリファラル採用に取り組んでくれた社員とのコミュニケーションのきっかけであり、自社がリファラル採用に取り組む背景や意義をストーリーとして伝え、社員が友人におすすめしたくなる意向が高まるコミュニケーションを行いましょう。
そして、社員が会社を自分事化しやすくするために、採用に関わる情報を、できる限り透明性を持って流通させ、当事者意識を高めていきましょう。
また、社員がせっかく友人紹介をしても友人への連絡が遅れたり、選考に落ちた時のフォローもなければマイナスな体験を生んでしまいます。
紹介者である社員に対しては、あらかじめ合否基準は明確にしておくことや、NGだった際のフォロー方法も決めておくなど、リファラル採用がマイナス体験で終わらず、決定時には感謝・賞賛されて喜びを共感できることで従業員体験を向上させることにつながるのです。
これからのエンゲージメント向上は、リファラル採用からはじめる
今回は、これからの従業員エンゲージメントの高め方として、リファラル採用で従業員体験を高めていくことをご紹介しました。
従業員エンゲージメントに課題を感じている人事の方は、一度リファラル採用に取り組んでみてはいかがでしょうか。新しい優秀な人材の獲得のみではなく、エンゲージメントの高い組織づくりにつながる一歩になるでしょう。
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