日本において労働人口の減少が進む中、優秀な人材の採用に加えて、労働生産性やエンゲージメントの向上が大きな課題となっています。そのような背景のもと、従業員の信頼する人脈から優秀な人材に出会い、ミスマッチ少なく採用のできる「リファラル採用」に注目が高まっています。しかし、長年、人事部が主導して採用することが当たり前となっている日本企業において、従業員に紹介してもらい優秀な人材を集めることは容易ではありません。
一方、海外においてはリファラル採用が主要な採用手法の一つとして確立されています。リファラル採用の効果や要因についても研究がなされ、「リファラル採用で入社すると離職率が低い」「仕事への満足度が高い」といったことが検証されてきました。
今回は、採用学研究所とともに海外における学術研究をレビューし、「従業員の紹介行動を促す要因は何か」について、エビデンスにもとづいて回答します。
本資料の目次
- 紹介行動をとる要因/どんなきっかけで紹介するのか?
- 紹介行動をとる人の特徴/どんな人が紹介し、どう働きかければよいのか?
- インセンティブの効用と課題/インセンティブは設定すべきか?メリット・デメリットは?
- 被紹介者の特徴/どんな友人に紹介するのか?
- 紹介行動が組織にもたらす効果/リファラル採用によってどのような組織効果があるか?
- 考察/国内企業はどのようにリファラル採用を取り入れていくべきか?
本記事では、その中からいくつかのトピックを抜粋して取り上げています。
紹介行動をとる要因
どんなきっかけで紹介するのか?
まずは、紹介行動の要因を探るため、どのようなきっかけで紹介するのか、2つの学術研究をもとに解説します。
第1に、ベルギーのゲント大学のVan Hoye氏による研究では、紹介行動の要因には下記4つがあり、その中でも「求職者を助けたい気持ちが高いこと」が最も大きい影響力を持つと分かりました。友人・知人の役に立ちたいという想いが紹介行動を促すということです。
この研究が興味深いのは、「会社を助けたい気持ち」と「求職者を助けたい気持ち」のどちらが紹介行動を強く促すのかを検証している点です。前者も紹介行動に影響していましたが、影響力の大きさでは後者に軍配が上がりました。
第2に、同じくVan Hoye氏の別の研究によると、「自分の会社の特徴をきちんと把握しているほど、知人・友人を紹介しようと考える」という仮説が支持されました。自社の特徴が分かっていると、知人・友人にも説明がしやすく、紹介へのハードルが下がります。また、知人・友人に紹介することによって、自分は良い会社に所属していることを改めて確認でき、自尊心も高まります。
インセンティブの効用と課題
インセンティブは設定すべきか?メリット・デメリットは?
ここまでは、紹介行動をとる要因について、どちらかというと内発的な側面を中心にお伝えしてきました。それでは、リファラル採用において外発的な要因はどのような意味をもつのでしょうか。具体的には、リファラル採用制度ではインセンティブを設定すべきなのかについて、学術研究を参考に検討します。
ネブラスカ大学リンカーン校のPieper氏らの研究によると、「紹介インセンティブが高いほど紹介する可能性が高まる」ことが分かりました。さらに興味深いことに、Pieper氏らの研究では、「会社への愛着が低い人や、知人・友人を紹介することにリスクを感じる人でも、紹介インセンティブの金額が大きいと紹介する可能性が高くなる」ことも分かりました。
このように考えると紹介インセンティブは難しい存在です。なぜなら、紹介インセンティブの金額が大きいと、紹介数を増やすことには一定の効果がありそうですが、会社への愛着にもとづいて「組織を良くしたい」という想いがなくても知人・友人を紹介する人も出てくるため、組織に合わない人を紹介されてしまう恐れがあります。まさに紹介インセンティブの難しさについて実証しているのが、マサチューセッツ工科大学のBond氏らの研究です。この研究によると、「紹介インセンティブが高くなると、質の低い候補者や、よく知らない人でも紹介する」ことが分かりました。
なお、日本では職業安定法第40条により、労働者の募集に従事する被用者に対して、賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合を除き、報酬を与えてはならないとされています。紹介報酬を検討する場合は、賃金規程等に基づく仕組みが必要だと一般的に考えられています。
紹介行動が組織にもたらす効果
リファラル採用によってどのような組織効果があるか?
紹介行動をとる人がいることによって、組織にはどのような効果があるのでしょうか。組織市民行動の研究を参照しながら、この点について検討します。
「組織市民行動」とは、会社のためになる自発的な役割外行動を指します。組織市民行動を行うほど離職しにくく、さらには、組織市民行動を行う人が多ければ会社のパフォーマンスが高まることが、これまでのたくさんの研究から検証されています。
テキサス大学オースティン校のDukerich氏らの研究では、組織市民行動や口コミに関する論文をレビューしながら、「従業員が採用に関連して行う口コミは、組織市民行動と密接に関連している」と述べています。さらには、「口コミをしようと考える気持ちは、組織市民行動の一種である」とも紹介されています。
こうした点を踏まえると、紹介行動、すなわち、自社を知人・友人に宣伝する行動は組織市民行動の一つであると言えます。その意味で、紹介行動をとる人は、組織市民行動の他の側面も同様に発揮する可能性が高いということです。
会社として紹介行動をとる従業員を増やすことは、組織市民行動をとる従業員を増やすことにもなり、それらは採用をより良いものにするだけではなく、会社のパフォーマンスを高めることにもつながっていきます。リファラル採用に力を入れることは採用の成果は勿論、会社の成果にも影響する大事なことなのです。
ぜひ本資料をダウンロードいただき、レビューの全文をご確認ください。