近年の人材採用市場において、ジョブ型雇用が採用手法として注目されています。
ジョブ型雇用とは、企業が明確に定義した職務内容や雇用条件に基づいて人材を雇用する方法です。
この記事では、ジョブ型雇用が企業の採用手法として関心を集めるようになった背景や、日本で定着している正社員一括採用制度であるメンバーシップ型雇用との違い、ジョブ型採用制度導入時の課題などについてわかりやすく解説します。
「ジョブ型雇用」目次
- ジョブ型雇用とは
- ジョブ型雇用と成果主義の違い
- ジョブ型雇用が注目されるようになった理由
- メンバーシップ型雇用とは
- ジョブ型雇用導入の課題
- 「ジョブ型雇用」まとめ
- ジョブ型推進や社内公募、スペシャリスト採用にMyReferの活用を
ジョブ型雇用とは
ジョブ型雇用とは、企業が人材を採用する際に、明確に定義した職務内容や雇用条件に基づいて労働者を採用する方法です。ジョブ型雇用は、企業と求職者がジョブディスクリプション(職務記述書)に基づいて雇用契約を交わし、契約の範囲内で就業する制度を指します。企業はジョブ型雇用で人材募集をする際、職務内容、職務の目的責任や権限の範囲、スキルや必要な経験、資格をジョブディスクリプションに明記する必要があります。
また、ジョブ型雇用で採用された就業者はジョブディスクリプションに明記された内容に基づき、基本的に異動や転勤は無く、仕事内容や勤務地、給料、評価基準など、規定に沿った契約内で従事します。
ジョブ型雇用と成果主義の違い
ジョブ型雇用は「成果や実力によって、給与や待遇が決められる人事制度」と誤解されている方も多く、成果主義と混合されがちです。しかし、ジョブ型雇用と成果主義は全くの別物であり、混同しないよう両者の違いに注意しましょう。
・「成果主義」…
業務遂行の過程と結果を基準として社員の評価を行うという考え方です。
・「ジョブ型雇用」…
職務内容のレベルに応じてグレードが定められ、グレードに応じて給与が支給されるため、成果が直接的に給与に反映されるわけではありません。
ジョブ型雇用は、あくまで「定められた職務や雇用条件に内の業務を完遂すること」を指しているものであり、業務遂行レベルや成果に対して給与や強化が変動する成果主義とは違うものになります。
ジョブ型雇用が注目されるようになった理由
では、何故近年ジョブ型雇用が注目されているのでしょうか。ジョブ型雇用が注目されるきっかけと理由について順を追って解説していきます。
要因は経団連中西氏の発言に遡る
ジョブ型雇用が注目されるきっかけは2019年に遡ります。当時の第五代経団連会長であった中西宏明氏は下記のように定例記者会見で提言をしたことにより、世間の関心を集めました。
“働き手の就労期間の延長が見込まれる中で、終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えることには限界がきている。外部環境の変化に伴い、就職した時点と同じ事業がずっと継続するとは考えにくい。”
引用:定例記者会見における中西会長発言要旨(一般社団法人日本経済団体連合会)
https://www.keidanren.or.jp/speech/kaiken/2019/0507.html
日本企業の生産性低下に中西氏は危機感を抱いた
では、どのような意図で中西氏はこのような発言をしたのでしょうか。それは、世界各国企業と比べた際に、日本企業の「競争力」と「ビジネス効率性」が劣っていると考えたためです。
スイスの国際経営開発研究所(IMD)が毎年発表している「世界競争力ランキング」という指標があります。当ランキングで日本は、同年鑑が発表開始となった1989年からバブル期終焉後の1992年まで、4年間1位を獲得していました。しかし、2020年には31位までに順位を落としてしまいました。
※図1
日本がランキングで下落してしまった理由は、ランキング評価指標である「ビジネス効率性」項目で、評価が大幅に下がっているためです。
※図2
特に、ビジネス効率性では、特に小分類である「生産性・効率性」の評価の低下が著しいことが分かります。
※図3
引用:
図1 IMD「世界競争力年鑑2020」からみる日本の競争力(第1回:日本の総合順位は30位から34位に下落IMD「世界競争力年鑑」日本の総合順位の推移)
https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/20201008.html
図2 四大分類による日本の競争力順位変遷(第1回:日本の総合順位は30位から34位に下落IMD「世界競争力年鑑」日本の総合順位の推移)
https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/20201008.html
図3 IMD「世界競争力年鑑」における日本の大分類・小分類別競争力順位の推移(第1回:日本の総合順位は30位から34位に下落IMD「世界競争力年鑑」日本の総合順位の推移)より引用し一部改変
https://www.mri.co.jp/knowledge/insight/20201008.html
ジョブ型雇用は日本の生産性向上の糸口となる
過去日本が「世界競争力ランキング」で一位だったときは、経済が右肩上がりで、技術や環境変化の速度が遅い時代でした。そのような日本の高度経済成長期には、ジョブ型雇用ではなくメンバーシップ型雇用は適切な雇用方法であったといえるでしょう。
しかし、現在はDXの推進やIT化が進む中で、企業を取り巻く環境が変化していくスピードも速いため、時代の変容に付いていける、より専門性の高い人材が求められています。日本企業が業績向上に転じ、世界に通用する競争力を身につけるためには、既存の採用手法では事足りずジョブ型雇用がその糸口となります。
急激なペースで少子高齢化に直面している日本では、少ない人数でより効率をあげる「生産性・効率性の向上」は必要不可欠です。スペシャリスト人材をより多くの企業で雇用していくためには、「ジョブ型雇用」を取り入れていくことは必須であるといえるでしょう 。
メンバーシップ型雇用とは
メンバーシップ型雇用とは、自社のミッション、ビジョン、バリューといった企業理念や行動指針といった考えに共感する人材を採用し、採用後にスキルを育成していく手法のことをいいます。
上述の中西氏の提言は、日本で主流となっている採用制度である「新卒一括採用」と、「長期的な人材育成」の基である「終身雇用」が世界各国のグローバリゼーションの潮流に見合っていないことから発言されたものと考えられます。
欧米では主流となっている雇用方法の「ジョブ型雇用」と、日本に根付いている雇用方法である「メンバーシップ型雇用」の違いとは一体どういったものなのでしょうか。ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違いを解説します。
長期的な視点で育成する=メンバーシップ型雇用
日本で主流となっている「メンバーシップ型雇用」とは、採用ポジションのスキル要件に合う人材を採用するのではなく、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」といった企業理念や行動指針といった考えに共感する人材を採用し、採用後にスキルを育成していく手法のことをいいます。
メンバーシップ型雇用は、「終身雇用制」「年功序列」「新卒一括採用」などとともに、多くの日本の企業で多く取り入れられている人事システムで、「日本型雇用」とも呼ばれます。
新卒一括採用では就業者は総合職として入社をしますが、入社した段階では部署や仕事内容は決まっていません。新卒は経験やスキルがない状態で新人研修や異動、ジョブローテーションを繰り返していくことで、経験を積んでいきます。このように「メンバーシップ型雇用」とは会社運営に必要な人材を長期的に育てていく人事制度のことをいいます。
出典:ジョブ型雇用ってどんな制度? 働き方の多様化で注目をあびる理由
https://sogyotecho.jp/jobgatakoyou/
ジョブ型雇用とは?誤解されやすいポイントと日本企業が導入する際に考えるべきこと
https://www.works-hi.co.jp/businesscolumn/jobtype
ジョブ型雇用導入の課題
日本が直面している「生産性の向上」の解決策は、ジョブ型雇用を取り入れていくことであると述べました。ジョブ型雇用は専門性の高い人材や企業の即戦力となる人材を採用できる仕組みであるため、IT化やテクノロジー化という言葉がキーワードとなっている現在社会に適している雇用方法ともいえます。今後、日本企業がジョブ型雇用制度を導入する際、どのような課題が生じるのかを下記にまとめました。
ジョブ型雇用導入の課題1. ジョブスクリプションの作成に労力を要する
ジョブ型雇用の大前提となるジョブディスクリプションは職務記述書とも呼ばれ、人材採用時に職務内容や条件を詳細に定義した文書のことをいいます。
ジョブディスクリプションは企業側が作成するもので、完成した内容を元に求人を公開します。
業務内容や達成すべきKPI・KGIを細かく設定した上で、業務の範囲を定めるため、採用時の要件が明確となり、業務の曖昧さを無くすことも可能です。
ただ、これまでメンバーシップ型雇用が中心となっている日本では、ジョブスクリプションの作成に慣れていない企業の人事採用担当者も多いでしょう。ジョブ型雇用の導入時には、各職務における実態を知るために現場へヒアリングを行い、情報を精査した上で条件を記載しなければなりません。そのため、新たにジョブ型雇用制度を導入する際は工数がかかってしまうでしょう。
ジョブディスクリプションとは?目的やメリット・デメリット、作成の流れとポイントを解説。
ジョブ型雇用導入の課題2.ゼネラリストの採用・育成が難題
ジョブ型雇用では、個人の知識や能力を発揮しやすい制度であるが故に、特定の領域に精通している専門性が高い人材が求められがちです。特に、デザイナーやエンジニアなど、特定の分野に狭く深く見識がある人材が好まれます。そのため、幅広い見識のあるゼネラリストの育成が課題となるでしょう。ゼネラリストとは、点である仕事をまとめ、業務全体を管理し線として繋げる役割を担います。ジョブ型雇用に偏りすぎてしまうと、「広範囲に渡る知識を持つビジネスパーソン」の採用が難しい且つ、育成が難しくなってしまいます。
ジョブ型雇用導入の課題3. 会社の風土にマッチする人材を採用するのが難しい
ジョブ型雇用は、もともとスキルが身についている人材を採用する方法であるため、企業のカルチャーにフィットした人材や忠誠心や愛社精神を持った人材を採用することが難しい手法になります。メンバーシップ型雇用では、新入社員を採用した後に社内研修を通じて、それらの人材を企業色に染められることがメリットとして挙げられますが、ジョブ型雇用は「人」ではなく「仕事」に重きをおいて採用を行うため、企業と就業者の間にミスマッチが生まれてしまい、離職率が高くなってしまう可能性がありますので、カルチャーフィットを見極めることも重要です。
インターナルモビリティーで社内完結で空きポストを充足
社外からの人材採用に頼るのではなく、社内のみで空きポストを充足させたい場合、インターナルモビリティーの制度が有効です。
インターナルモビリティーは、企業からの指示で部署異動を行うのではなく、社員の希望によって異動が行われる制度のことをいい、企業内の人事異動制度のひとつを指します。
人材の育成と社員のキャリア形成につながる異動方法であるため、社員のモチベーション向上に有効です。
社外の人材をジョブ型雇用するのではなく、まずは社内で空きポジションを充足させたい方は、インターナルモビリティーを検討してみてはいかがでしょうか。
「ジョブ型雇用」まとめ
ジョブ型雇用は「世界と渡り合える企業システムの構築」に適しており、専門性の高い人材や企業の即戦力となる人材を採用できる仕組みです。ただし、ジョブ型雇用にはメリットがある一方で、既存のメンバーシップ型採用から生まれている従業員の帰属意識やゼネラリストへの育成機会を毀損してしまう可能性もあります。雇用制度としてジョブ型雇用を導入する際は、双方のメリットとデメリットを見極めたうえで、企業方針に沿う制度構築を行っていきましょう。
ジョブ型推進や社内公募、スペシャリスト採用にMyReferの活用を
社内のジョブの空きポストは社内で公募を行いますが、社内の応募者がいない(または職務遂行が可能な人材がいない)場合には社外からスペシャリスト人材の採用を行います。
MyReferでは、社内ジョブの周知や空きポストの紹介、社内公募の推進や選考管理が可能です。また、社外人材の採用時にも従業員の社員からのリファラル採用を推進することで、会社のカルチャーにマッチしやすいスペシャリストの採用を可能にする「社内公募」や「リファラル採用」を活性化させるサービスです。
ジョブ型雇用を推進していきながら、愛社精神や帰属意識の高いスペシャリスト採用を推進し、企業の生産性を上げながらもエンゲージメントの高い組織文化をつくっていきましょう。当社サービスやコンサルティング内容に関しては、詳細は当社までお問い合わせください。
監修者情報
監修 | TalentX Lab.編集部
この記事は株式会社TalentXが運営するTalentX Lab.の編集部が監修しています。TalentX Lab.は株式会社TalentXが運営するタレントアクイジションを科学するメディアです。自社の採用戦略を設計し、転職潜在層から応募獲得、魅力付け、入社後活躍につなげるためのタレントアクイジション事例やノウハウを発信しています。記事内容にご質問などがございましたら、こちらよりご連絡ください。