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2026.06.28更新

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採用ファネルとは?各フェーズの定義とKPI設計—人事部長が整備すべき採用指標の全体像

「採用活動に多くのリソースを投じているにもかかわらず、なぜ思うように人材が集まらないのか」。多くの大手企業の人事部長が、こうした問いを抱えています。その背景には、採用活動を「感覚と経験」で回してきた結果、どのプロセスに問題があるのかを客観的に把握できていないという構造的な課題があります。これは、人事部長個人の責任ではありません。むしろ、旧来の管理手法が限界を迎えているサインと捉えるべき状況です。

こうした課題の解決策として注目されているのが「採用ファネル」の考え方です。各フェーズに適切なKPIを設計し、データをもとに意思決定できる仕組みをつくること。そこにこそ、再現性のある採用体制を構築する鍵があります。

本記事では、採用市場の変化を踏まえながら、採用ファネルの基本定義から各フェーズごとに管理すべきKPI、実務で使える改善アクションまでを、人事部長・採用責任者向けに体系的に解説します。

目次|採用ファネルとKPIの設計

  • 「採用ファネル」とは何か
  • なぜ今、人事部長に「採用ファネルの再構築」が求められるのか
  • 採用ファネルを構成する4つのフェーズと重要KPI
  • 多くの大手企業が「KPIを追っているのに改善できない」3つの構造的理由
  • 人事部長が主導すべき「勝てるKPI設計」の5ステップ
  • 【実践】ファネルの数値が悪化した際の「処方箋」
  • まとめ

「採用ファネル」とは何か

データ起点で採用活動をアップデートする上で、まず基盤として理解しておくべきフレームワークが「採用ファネル」です。

採用ファネルとは、求職者が自社を「知る(認知)」段階から、応募、選考を経て「入社・定着」に至るまでの一連のプロセスを、漏斗(ファネル)の形で可視化したものです。単なる応募数の総数を管理するのではなく、「どのファネルで、どれだけの候補者が次のフェーズへ進んでいるか(移行率)」を構造的に把握することで、ボトルネックの所在を特定し、データをもとにピンポイントな改善を進めることができます。

特に大手企業では、採用活動が複数部門・複数チャネルにまたがるため、数値管理の粒度や定義が揃っていないケースも少なくありません。その結果、全体の状況を正しく判断できず、改善施策が場当たり的になりやすい傾向があります。だからこそ、採用ファネルを単なる「管理の道具」ではなく、データに基づいた「意思決定の基盤」として捉え直すことが、今の採用市場を勝ち抜く第一歩となります。

なぜ今、人事部長に「採用ファネルの再構築」が求められるのか

では、なぜ今このタイミングで、すでに社内にあるはずの「採用ファネル」をわざわざ再構築しなければならないのでしょうか。

それは、採用環境がこの数年で大きな変容を遂げたからです。労働人口の構造変化とテクノロジーの急速な進展が重なり、採用活動を「経験と勘」に委ねることがもはや通用しない時代に突入しています。人事部長に求められるのは、この市場の変化を正確に読み取り、先ほど挙げた採用プロセス(ファネル)を「経営指標」として管理し直す能力に他なりません。

労働人口減少とAI活用:2026年の採用市場における「データの重要性」

2026年現在、日本の生産年齢人口の減少は加速しており、優秀な人材をめぐる企業間の競争は激化の一途をたどっています。同時に、生成AIやATS(採用管理システム)の進化により、求職者の行動データをリアルタイムで収集・分析できる環境が整いつつあります。

この変化が意味するのは、採用において「データ(ファネルの数値)を持っている企業」と「持っていない企業」の差が、そのまま採用力の差として表面化するということです。AI選考ツールの普及により、書類審査のスピードと精度は向上しつつありますが、そのツールの恩恵を最大化するためには、前提となる採用ファネルのデータ構造が整っていなければなりません。データのない場所にAIを入れても、精度の高い判断は生まれない―この原則は、どれほどツールが進化しても変わりません。

また、求職者側の情報収集力も格段に向上しています。企業の採用プロセスのスピードや透明性が候補者体験(CX)として評価され、口コミや評判として広がりやすい時代です。採用ファネルを正しく再構築し、プロセス全体のデータを可視化することは、内部の業務効率を高めるだけでなく、自社の採用ブランドを守ることにもつながります。

採用活動を「感覚」から「経営指標」へアップデートする意義

採用ファネルの再構築によって各プロセスの数値を正しく管理できるようになると、人事部の社内における立ち位置が「経営のパートナー」へと変化します。

人事部長が経営会議で採用状況を報告する際、「先月は○名採用しました」という結果報告(過去の数値)が中心になってしまうと、経営層に対して採用活動がもたらす事業への貢献度を十分に伝えきれない側面があります。しかし、「どのチャネルからの応募が最終的に活躍人材につながっているか」「現在の選考スピードでは、事業計画に必要な人員を○月までに確保できるか」という形で語ることができるようになると、採用は「経営の意思決定を支える機能」として評価されます。

採用ファネルのKPIを整備する最大の意義は、投資対効果(ROI)の説明責任を果たせるようになることです。媒体費用、エージェントフィー、採用担当者の稼働コスト―これらを各フェーズに紐づけることで、「どこへの投資が、どれだけの採用成果をもたらしているか」が可視化されます。さらに、採用プロセスを標準化することで、担当者が変わっても一定水準の採用品質を維持できる「組織的な再現性」も確保できます。

採用活動のノウハウや判断基準が個人の経験に依存している状態では、チーム全体で再現性のある改善を進めることが難しくなるケースが少なくありません。「最近応募が減っている気がする」「面接辞退が増えた印象がある」といった感覚的な議論だけでは、改善アクションが曖昧になります。一方で採用ファネルを整備していれば、どのチャネルでターゲット流入が減少しているのか、どの選考フェーズで離脱が起きているのかを定量的に把握し、経営指標として常に最適な打ち手を導き出すことが可能になります。

採用ファネルを構成する4つのフェーズと重要KPI

採用ファネルは、求職者の行動フローに沿って大きく4つのフェーズで構成されます。
「認知・興味」→「応募・選考」→「内定・承諾」→「入社・定着」という流れの中で、どのファネルに何人の候補者が存在し、次のフェーズへ何人が進んでいるかを可視化することで、ボトルネックの所在が初めて見えてきます。

以下の各フェーズごとの解説では、それぞれのKPIが「何を意味し、どう改善につなげるか」まで踏み込んで説明します。数値を眺めるだけの管理から、改善を駆動する「道具」としての活用へ—その転換こそが、採用ファネル整備の本質です。

なお、各フェーズにおける歩留まりの水準は業種・職種・チャネルによって大きく異なります。重要なのは業界平均と比較することよりも、自社の過去データを蓄積し、「自社の標準」からの逸脱をいち早く検知できる体制を整えることです。

認知・興味フェーズ:チャネル別の「有効母集団形成率」を追う

採用ファネルの入口となるこのフェーズで追うべきは、単純なエントリー数ではありません。自社のターゲット要件(スキル・経験・価値観)に合致した候補者が、どの割合で母集団に入ってきているかを示す「有効母集団形成率」です。

たとえば、求人媒体Aからは多数の応募があっても、書類審査を通過する候補者が少なければ、実質的なコストパフォーマンスは低くなります。一方、スカウト経由では応募数が少なくても、書類通過率が高いケースがあります。チャネルごとにこの数値を比較することで、採用予算の最適な配分先が見えてきます。

また、このフェーズでは「認知から応募への転換率」も重要な指標です。求人ページへのアクセス数に対して、実際に応募に至った割合が著しく低い場合は、求人票の内容や訴求力に課題がある可能性を示しています。特に大手企業では職種ごとに最適チャネルが異なるケースが多く、一律評価ではなく職種別の分析が求められます。単なる母集団形成ではなく、「有効な母集団形成」へと視点を切り替えることが、採用精度を高める第一歩です。

応募・選考フェーズ:面接官ごとの「評価基準の違い」を可視化する

このフェーズでは、書類通過率、面接通過率、そして選考間のリードタイム(所要日数)が主要なKPIとなります。特に注目したいのが、面接官ごとの評価基準の違いです。

書類審査は通過したにもかかわらず、一次面接の通過率が特定の面接官だけ著しく低い、あるいは逆に高すぎる場合、評価基準が統一されていない可能性があります。これは採用品質の不安定さを意味するだけでなく、優秀な候補者を取りこぼしたり、ミスマッチな人材を通過させるリスクを内包しています。「なぜ評価がばらついているのか」まで踏み込んで分析することが重要であり、単に通過率の数値を眺めるだけでは本質的な改善にはつながりません。

選考間のリードタイムも見逃せません。書類審査から一次面接まで、あるいは最終面接からオファーまでの所要日数が長くなると、候補者の志望度が低下するだけでなく、競合他社への流出リスクが高まります。選考スピードはCXに直結する指標として、積極的に管理すべき数値です。

内定・承諾フェーズ:承諾率を左右する「CX」の数値化

内定を出したにもかかわらず承諾に至らないケースは、多くの企業で課題となっています。内定承諾率は採用ファネルの中でも特にCXの影響を受けやすい指標です。

内定承諾率を下げる要因としては、選考中のコミュニケーションの遅さ、オファー面談での情報提供の不足、候補者の不安や懸念が解消されていないといった点が挙げられます。候補者は給与条件だけで意思決定しているわけではなく、「この会社で働くイメージを持てるか」を重視しています。だからこそ、承諾率を単なる結果指標として扱うのではなく、候補者体験全体の質を測る指標として捉えるべきでしょう。

また、内定者フォローの頻度や質をKPI化することも有効です。内定から入社までの期間に、何回・どのような接触を行ったかを記録し、入社した人材と辞退した人材のフォロー状況を比較することで、効果的なCX施策が見えてきます。特に大手企業では、部門によってコミュニケーションの密度や質に差が出やすく、承諾率の部門間格差が発生しやすい傾向があります。「どの接点でCXが悪化しているか」を分析する視点が欠かせません。

入社・定着フェーズ:採用ファネルの最終ゴールは「長期的な活躍(LTV)」にある

採用ファネルのゴールは、「内定承諾」ではありません。入社した人材が期待どおりのパフォーマンスを発揮し、組織に定着しながら、中長期的に事業成長へ貢献していくこと。そこまでを視野に入れて初めて、採用の真の成果を測ることができます。

この視点から、採用ファネルの評価指標は、入社数だけでなく「入社後の長期的な活躍(LTV:ライフタイムバリュー)」まで含めて設計することが重要です。具体的には、入社後一定期間の早期離職率や評価結果、入社チャネル別の活躍度比較などが重要なKPIとなります。

たとえば、「媒体A経由の採用者は在籍率が高い傾向にある」「エージェントB経由の採用者はパフォーマンス評価が高い傾向にある」といった分析ができれば、採用チャネルを単なる「採用人数」ではなく、「長期的な活躍への貢献度」という視点で評価できるようになります。

採用人数のみをKPIにすると、短期離職が発生していても「採用成功」と判断されてしまう可能性があります。重要なのは、「採用できたか」ではなく、「採用した人材が継続的に事業成長へ貢献できているか」という視点です。この考え方を採用ファネルの設計思想に組み込むことが、採用部門を経営と直結した機能へと進化させる鍵になるといえるでしょう。

多くの大手企業が「KPIを追っているのに改善できない」3つの構造的理由

採用KPIの重要性は広く認識されるようになった一方で、「数値は管理しているが、採用力が向上しない」という声は依然として多く聞かれます。問題は、KPIを設定すること自体にあるのではなく、それが機能する仕組みになっていないことにあります。その背景には、共通する3つの構造的な課題があります。

データの分断:ATS、媒体、エージェント経由が統合されていない

多くの企業では、採用データが複数のシステムや経路に分散しています。ATSに記録された選考データ、媒体ポータルの応募管理画面、エージェントとのメールやExcelでのやり取り。これらが統合されずに存在しているため、採用ファネル全体を横断した分析が事実上困難な状態に陥っています。

その結果、「媒体A経由の応募者は最終的にどれだけ採用に至ったか」「エージェントBの紹介者の内定承諾率はどの程度か」といった問いに、即座に答えられない状況が生まれます。データが分断されている限り、KPIは部分的な数値の羅列にとどまり、組織全体の採用力を俯瞰する「計器」として機能しません。

また、現場側が独自管理を行っている場合、人事部側との間でデータ定義に差異が生じるケースもあり、「どの数字を基準とすべきか分からない」という状態が意思決定のスピードを低下させます。

部分最適の罠:現場マネージャーと人事部で「追うべき指標」が一致していない

人事部が採用KPIを設計・管理していても、現場のマネージャーが「自部門のポジションが充足されればよい」という視点で行動している場合、組織全体の採用最適化は実現しません。これが「部分最適の罠」です。

たとえば、面接日程の調整が遅れがちな部門があるとします。現場マネージャーの視点では採用対応が後回しになりやすい一方、その遅延が選考リードタイムを長期化させ、候補者辞退率の上昇につながっている場合、それは組織全体の採用コストに直結する問題です。

また、人事部が採用人数や採用スピードを重視している一方で、現場側がカルチャーフィットや即戦力性を優先している場合、KPI設計の段階で認識の乖離が生じやすくなります。KPIは単なる管理指標ではなく、「組織全体の共通言語」として設計することが不可欠です。

アクションの欠如:数値を「報告」するだけで「改善のトリガー」が決まっていない

採用KPIが設定されていても、「その数値が一定の水準を下回ったとき、誰が、何を、いつまでに行うか」が定義されていなければ、KPIはただの報告数値に終わります。

たとえば、面接辞退率が一定以上になった際に「辞退が増えた」と報告するだけでは不十分です。なぜ辞退が発生しているのかを分解し、面接日程調整フローの見直しや面接官トレーニング、スカウトターゲットの修正、求人票の見直し、オファー面談の再設計といった具体的な改善アクションへ迅速につなげる必要があります。改善のトリガーとなるアラート基準と、それに対応する担当者・アクション・期限をセットで設計すること—KPIは「モニタリングのための数値」ではなく、「意思決定を引き起こすための計器」として設計されなければなりません。

人事部長が主導すべき「勝てるKPI設計」の5ステップ

採用ファネルを機能させるためには、単に数値を並べるのではなく、「意思決定に使える状態」にする必要があります。採用ファネルのKPI設計は、指標をリストアップすることから始まるのではなく、事業の目標から逆算し、現場を巻き込みながら、実際の改善につながる仕組みとして設計することが重要です。特に大手企業では、複数部門・複数チャネルが関与するため、人事部長主導で設計思想を統一することが求められます。

STEP1:事業計画から逆算した「必要歩留まり」のシミュレーション

KPI設計の出発点は、採用人数ではなく事業計画です。目標採用人数が決まれば、そこから逆算して各フェーズで必要な母数を算出します。過去の実績データをもとに内定承諾率・最終面接通過率・一次面接通過率・書類通過率を積み上げることで、目標達成に必要な入口段階の応募者数が明確になります。

このシミュレーションを行うことで、「現在の採用チャネルの規模では目標達成が困難である」という事実が数値で明確になります。根拠のある課題認識は、予算獲得や体制強化の交渉材料にもなるでしょう。事業部門の責任者に対して、採用の「投資計画」として説明できる形に整えること—これが人事部長の重要な役割です。

ここで一点、見落としがちな「失敗パターン」にも触れておきたいと思います。「応募数」だけをKPIの最上位に置いた場合、現場の面接官が大量の候補者対応に追われ、本来業務と採用業務の両立に疲弊するケースが生じます。採用数は増えたように見えても、入社後の定着率が低下し、採用効果が見かけ上に終わるという状況です。KPIは事業成果までを見据えて設計する—この原則は、シミュレーションの段階から意識しておく必要があります。

STEP2:現場を巻き込む「共通言語(定義)」の策定

KPI設計で意外と重要なのが、「定義を揃えること」です。「書類通過」「面接通過」「内定」といった用語の定義が、人事部と現場マネージャーの間でずれていると、同じ数値を見ても異なる解釈が生まれます。

まず行うべきは、各フェーズの「開始条件」と「完了条件」を明文化することです。たとえば「一次面接通過」は「面接実施後、一定時間以内に合否判定が確定した時点」と定義する、といった具合です。定義の策定には採用担当者だけでなく、各部門の面接担当マネージャーも巻き込むことが重要です。現場が「自分たちも設計に関わった」という感覚を持つことで、KPIへの当事者意識が生まれ、部門横断で改善議論ができる基盤が整います。

STEP3:リアルタイムでボトルネックを特定するダッシュボードの構築

採用データは、月次集計だけでは改善スピードが遅くなります。特に採用が集中する時期や、特定のポジションで急ぎの採用が発生している局面では、リアルタイムで状況を把握できるダッシュボードの存在が不可欠です。

ダッシュボードでは、現在進行中の選考案件数やフェーズ別の候補者数、各案件のリードタイム、直近の通過率の推移に加え、チャネル別歩留まりや面接官別通過率、部門別承諾率、CXの悪化傾向などを横断的に確認できる状態をつくることが求められます。経営層や現場責任者が見た際に「どこで異常が起きているのか」が直感的に把握できる設計であることが重要です。数字を見やすく整理するだけでなく、”次に何を判断すべきか”まで示唆できるダッシュボードこそ、実務で機能する管理基盤といえます。

STEP4:先行指標(リードタイム等)を用いた「採用遅延」の早期検知

採用KPIには「遅行指標」と「先行指標」があります。採用人数や内定承諾率は遅行指標であり、数値が悪化した時点では既に採用遅延が発生しています。一方、選考間のリードタイムや書類審査の滞留日数は先行指標であり、これらを監視することで問題を早期に検知できます。

たとえば「書類受付から一次面接設定までのリードタイムが一定日数を超えた案件には自動アラートを出す」という仕組みを設計しておくと、見落とされていた案件の進捗遅延を組織的にフォローアップできます。採用遅延は候補者の志望度低下や競合他社への流出を招くだけでなく、現場の業務計画にも影響を及ぼします。先行指標を用いた「予防的管理」は、採用ファネルのKPI設計において欠かせない視点です。

STEP5:AI活用によるデータ収集・分析の自動化プロセス導入

2026年現在、採用領域でのAI活用は急速に実用化が進んでいます。書類審査の一次スクリーニング、候補者とのスケジュール調整の自動化、面接ログの要約・辞退理由の分類、ボトルネック検知、候補者傾向の分析—こうした作業をAIやシステムに委ねることで、採用担当者は本来の意思決定業務に集中できるようになります。

さらに近年では、選考途中の候補者の行動パターンや応答速度の変化から「辞退の兆候」を早期に検知し、フォローアクションを促す仕組みも登場しつつあります。こうしたデータ活用の広がりは、採用担当者の「勘」に頼っていた部分を、より構造的な判断へと置き換える可能性を秘めています。

ただし重要なのは、「作業はAIに委ね、意思決定は人が行う」という設計哲学です。AIが提示するデータをもとに、「どのボトルネックを、どの順で、どう改善するか」を判断するのが人事部長の役割です。自動化は、人の判断をより高度にするための手段であって、人を不要にするものではありません。

【実践】ファネルの数値が悪化した際の「処方箋」

採用KPIを整備しても、実際に数値が悪化したとき「何をどう改善すればよいか」を具体的に特定できなければ、せっかくの指標を十分に活かしきれない側面があります。数値の変動は「症状」であり、その背後にある「原因」を特定してはじめて有効な改善アクションが生まれます。採用ファネルを整備する上では、「どの数値が悪化した時に、何を疑うべきか」を事前に整理しておくことが、改善を機能させる鍵になります。

応募は多いが面接通過率が低い場合:求人票のズレを疑う

エントリー数は確保できているにもかかわらず、書類通過率や一次面接通過率が低迷している場合、まず疑うべきは求人票の内容と、実際に求める人材像のズレです。求人票の表現が抽象的すぎると、ターゲット外の候補者が多く応募し、選考コストが膨らむ結果になります。たとえば、「未経験歓迎」と訴求している一方で実際には高い専門性を求めている場合、応募は集まっても通過率は低下します。この状態では面接工数だけが増加し、現場負荷も高まります。

改善の手順として、まず直近の不合格者のプロフィールを分析し、どのような属性の候補者が多く落とされているかを整理します。次に、実際に活躍している社員のプロフィールと比較し、求人票で強調すべきスキル・経験・価値観の要件を再定義します。「必須要件」と「歓迎要件」の境界を明確にし、候補者が自分の適合度を自己判断できる表現に改めることが、有効母集団の質を高める直接的なアプローチです。また、スカウトのターゲット条件や訴求内容と現場要件の整合性も合わせて見直すことで、母集団形成の段階から採用精度を高めることができます。

最終面接での辞退が止まらない場合:オファー面談の設計とCXを再構築する

最終面接まで進んだにもかかわらず内定辞退が続く状況は、採用コストの損失として深刻です。採用活動に投じた時間・費用・関係者の稼働が成果につながらないばかりか、採用計画そのものの遅延を招きます。この段階での辞退は、多くの場合、選考プロセス中のCXの質に起因しています。

見直すべきポイントは大きく2つあります。

一つ目は、オファー面談の設計です。条件提示だけで終わるオファー面談ではなく、候補者のキャリア観や懸念点を丁寧にヒアリングし、入社後に期待される役割やキャリアパス、チーム文化、評価制度、現場との接続感まで含めて具体的に伝える場として機能させることが重要です。

二つ目は、最終面接前後のコミュニケーション頻度と質です。「最終面接から結果連絡まで時間がかかりすぎる」「合格後のフォローが薄い」という状況は、候補者の不安を高め、他社への流出を促します。最終面接から内定通知までのリードタイムを短縮し、内定後も定期的な接触を設計することが、辞退率低減の実効的な対策です。CXの改善は、承諾率向上だけでなく採用ブランドの向上にもつながります。

特定の部門だけ停滞している場合:面接官トレーニングと基準の平準化

採用ファネルの停滞が特定の部門に集中している場合、採用チャネルや求人票の問題ではなく、その部門の採用プロセスそのものに課題がある可能性が高いです。典型的な要因として、面接官の評価スキルの偏りと、採用基準の属人化が挙げられます。

対策の第一歩は、面接通過率を面接官ごと・部門ごとに可視化することです。ある面接官だけ通過率が極端に低い、あるいは逆に高すぎる場合、評価基準が標準から大きく逸脱している可能性があります。次に、面接で用いる評価項目と評価基準を部門横断で統一し、面接官向けのトレーニングを実施します。また、面接ログを共有しながら、どのような人材が実際に活躍しているのかを分析することで、採用基準そのものをアップデートしやすくなります。評価基準の平準化は、採用品質の安定化だけでなく、面接官自身の負担軽減にもつながります。採用ファネルの改善は人事部だけで完結するものではなく、現場を巻き込んだ組織全体での取り組みが不可欠です。

まとめ

採用ファネルは、単なる採用プロセスの見える化ツールではありません。組織の採用力を継続的に診断し、問題の所在を特定し、改善の意思決定を支える、いわば「組織の健康診断書」です。

2026年の採用市場では、感覚的な採用運営だけでは競争優位を維持することが難しくなっています。応募数だけを追う時代から、CXの質・選考スピード・入社後活躍までを含めて設計する時代へと変化しています。数値を確認するだけでなく、データに基づいて採用施策を柔軟に修正・強化し続けるサイクルを回すことで、中長期的に採用競争力を着実に高めていくことが可能になります。

一方で、多くの企業では「KPIを管理しているのに改善できない」という課題が生じています。その背景には、データの分断、定義の不一致、改善アクション不在という構造的問題があります。重要なのは、数値を監視することではなく、「どの数値を、どの意思決定につなげるか」を設計すること。この視点こそが、採用ファネルを「飾り」ではなく「武器」にする条件に他なりません。

しかし、採用データの統合基盤の整備や、チャネルを横断した分析の自動化、CXの設計といった領域は、自社のリソースだけでは限界を感じる局面も少なくありません。特に複数部門・複数職種を横断したKPI設計が必要な大手企業では、運用負荷が大きくなりやすい傾向があります。こうした課題に対しては、外部の専門的な支援や統合型プラットフォームを活用しながら、自社の採用データを一元化・構造化していくことも有効な選択肢のひとつでしょう。

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監修者情報

監修 | TalentX Lab.編集部
この記事は株式会社TalentXが運営するTalentX Lab.の編集部が監修しています。TalentX Lab.は株式会社TalentXが運営するタレントアクイジションを科学するメディアです。自社の採用戦略を設計し、転職潜在層から応募獲得、魅力付け、入社後活躍につなげるためのタレントアクイジション事例やノウハウを発信しています。記事内容にご質問などがございましたら、こちらよりご連絡ください。

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