人材獲得競争がますます激しくなる中、企業が優秀なタレント人材を獲得するために重要な鍵となるのは「採用マーケター」という存在です。海外の企業では採用マーケターという職種があり、人事部で特に重要なミッションを担っています。
これからは、日本企業でも採用力をつけるには、採用マーケティングを実行する専任人材として採用マーケターを置くことが必要になるでしょう。今回は、採用マーケティングの定義から、採用マーケターに求められる役割やスキルをご紹介します。
「採用マーケティング」とは
「採用マーケティング」とは、マーケティング戦略を駆使して企業で働く価値を提案し、タレントを惹きつけ、採用し、維持する行動を指します。
日本ではSNSを活用した採用のことを指すこともあるようですが、海外では2013年から優秀なタレントを獲得するために、前述したよりも広い概念で使われています。
具体的には、SNSを使ったソーシャルリクルーティングはもちろん、リファラルリクルーティング、オウンドメディアリクルーティングなども、マーケティング戦略を活用して転職潜在層にアプローチする採用マーケティングチャネルと言われています。
採用マーケティングが重視される背景
採用マーケティングがますます重要になっている背景は大きく2つあります。
1.少子高齢化によって採用候補者(=転職顕在層)が減少している
労働力人口の減少は言わずもがなですが、特にエンジニアなどIT人材は有効求人倍率も10倍を超えています。そもそも企業側の需要と、転職市場にいる転職顕在層の需給バランスが10倍以上あるという状況なのです。
そんな中、全く転職を考えていない転職潜在層にいかにアプローチするかが各社の課題になっています。
2.インターネットやSNSの発展により、情報の過剰流通が行われている
インターネットやSNSの発展により情報が過剰に流通した現在では、現在個人が受け取れる選択可能情報量は、実際に消費される情報量の2万倍になっています。つまり、インターネットやSNSなど様々なところから情報が入ってくるため、そもそも何が正しいか分からず、情報の信憑性が重要になっているのです。
これは採用でも同様です。10年前は求人広告で条件や働きやすい環境を伝えていましたが、現在は求人広告を見ても何が本当か分からない状況になっています。そんな中では、一人ひとりの候補者の志向性にあわせてWhyから語るストーリーを伝えることが求められます。
以上2点をふまえ、転職潜在層にアプローチする必要がある中でも、極めて多くの情報に埋もれないようにしなければいけません。広く100人に対して一般的な情報を出すのではなく、自社が求めるタレント1人に絞って、どうやってリアルな情報を伝えていくかを考える必要があります。
そのようにペルソナを設計して、いかに認知して興味を持ってもらうかを戦略的に設計する、マーケティングの考え方が重要になっています。
海外の人事部で置かれている「採用マーケター」の役割
さて、採用マーケティングを専任で行う人材として注目されているのが「採用マーケター」です。海外では、リクルーターが採用マーケティングから選考対応まで全てを担当するのではなく、それぞれの役割について分業化が進んでいます。
そのようななかで、TalentX社では、日本における採用マーケターの役割を以下のように定義しています。
これからの人事部は分業制に
採用マーケターは、上記のように応募の手前の認知拡大やブランディングの役割を切り出しているケースが多いです。そのため、直接的な採用人数の責任は負いません。営業組織でいうと、営業ではなく、マーケティングやインサイドセールスのような役割を担います。
- 採用マーケター:企業認知の拡大、採用ブランディング
- ソーサー:候補者との接触促進、スカウト、エージェントコミュニケーション
- リクルーター:選考対応、説明会、イベント対応、選考候補者の動機付け
- コーディネーター:リクルーティング活動の効率化とオペレーション実施
採用マーケターの役割
採用マーケターには、企業のブランド策定からキャリアWEBサイトの管理、企業のクチコミサイトの管理、候補者ペルソナ設計、候補者を惹きつけるストーリーの作成など、多様なチャネルから候補者との接点を持ち、維持することが求められます。
リファラル採用も、社員にいかに「紹介したい」と思って動いてもらうか、というマーケティングをベースにした考え方で社内プロモーションを行ったり、動機付け施策を企画し実行する必要があります。
リクルーティングと採用マーケティングの違い
採用マーケターは比較的新しい役割です。マーケティング担当者は「採用や入社」に対して直接的な責任を負わないという点で、従来の採用担当者やリクルーターとの役割が異なります。
採用数に対して責任を負わない代わりに採用マーケターは、企業の採用ブランドストーリーを設計し、候補者に認知させることで、質の高い応募者をより多く生み出し、採用担当者がより迅速かつ簡単に採用計画を充足させるためのサポートをしていきます。
一般的にリクルーティング活動は、自社が募集している求人情報に対してマッチングする候補者を獲得するために、求人サイトや人材紹介エージェントを利用しながら「候補者と求人」を結び付けることに注力します。
一方で採用マーケターは自社のブランドをどうやって候補者に伝えていくのか設計し、自社の魅力を伝えるためのコンテンツを作成し、そのコンテンツをソーシャルメディアや自社ホームページ、リファラル(社員紹介)など多数のチャネルを通じて情報を届けていきます。つまり「候補者と企業」を結び付けることに注力しているのです。
採用マーケターの市場価値
このように非常に難易度の高いミッションを担う海外の採用マーケターは、実は一般的なリクルーターと比較して15%年収が高いと言われています。市場価値の高い職種として位置づけられているのです。2019年の米国の採用テクノロジー企業Rallyの調査によると、採用マーケターの実務者は、人事業務や採用担当者に比べ、中堅レベルで15%、マネージャーで40%高い収入を得ていることがわかりました。
従来の人事部は全員で母集団形成から選考対応を行っていましたが、これからはそれぞれが分業して専門スキルを駆使しながらも、自社のブランドストーリーを戦略的に展開することが求められます。成功すれば、採用マーケターの存在によって採用が企業の競争力になり、持続可能にファンが増える会社になっていくでしょう。
どうすれば採用マーケターになれるのか?
2019年、同米国のRally社が採用マーケターに対し「採用マーケティング業務に携わる以前はどんな業務に従事していたのか?」と尋ねました。その結果は、24%が採用担当出身者、25%がマーケティング業務出身者、27%が前職でも採用マーケティング業務に携わっていると回答しており、前職が採用マーケターであった27%の前々職は主に採用担当でした。採用マーケティング戦略が採用活動の中心となるにつれ、より多くのマーケターが採用マーケターになる傾向があります。
専任の採用マーケターを抱える企業は、ほとんどの場合1人体制か、大手企業でさえ小規模なチームしか抱えていません。このことも、採用担当者が候補者を見つけ、惹きつけるためのマーケティングスキルを身につけなければならない理由のひとつになっています。
一部の企業では、マーケティング部門がそれを代行し、ブランディングやデザイン、採用ページの管理、ソーシャルメディア管理、コンテンツ作成などの採用マーケティング活動のサポートを行っています。また、採用マーケティング専門の代理店からの採用マーケティングサービスに投資する企業も存在しています。
人材獲得競争の激しいマーケットで候補者を発見し、惹きつけ、採用する方法がデジタル化、モバイル化、ソーシャル化するにつれ、採用マーケティングの分野もB2BやB2Cマーケティングと同様、洗練されたものに進化していくだろうと考えられます。
これからの日本企業に採用マーケターを
今回は、採用マーケティングの定義から、採用マーケターに求められる役割と市場価値についてご紹介しました。これからの企業の採用力は、採用マーケターにかかっていると言っても過言ではないでしょう。
あなたの企業でも、採用マーケターを設置することを検討してみてはいかがでしょうか。下記お役立ち資料では、採用マーケターの役割と必要な4つのスキルに関して簡単に紹介しています。
中長期でファンが集まる、採用力の高い企業となるために採用マーケターを育成していきましょう。