人材獲得競争の激化などを背景に新たな採用手法としてリファラル採用に取り組む企業は年々増えており、2023年には6割を超えています。※
一方、制度設計や社員への周知・浸透、文化定着などの各フェーズで壁にぶつかるケースは少なくありません。パーソルテンプスタッフ様は2018年からリファラル採用を推進されており、6年間で9倍の応募数を創出されていますが、その裏側には数多くの試行錯誤がありました。
今回は、パーソルテンプスタッフ様で6年間リファラル採用を推進されてきた大野氏をお招きし、リファラル採用でこれまで取り組んできた施策、失敗施策とそこから得た学び・成功ポイントなどを具体的にお話しいただいた、好評のセミナー内容をご紹介します。
※ TalentX|2024年1月 「リファラル採用の実施状況に関する企業規模・業界別 統計レポート」
※当日の講演をより詳しくご覧になりたい方は、下記より「レポートのダウンロード」が可能です。
目次
- 登壇者紹介
- 採用市場動向と持続可能な採用の必要性
- パーソルテンプスタッフ様の取り組み
- パネルディスカッション
登壇者紹介

パーソルテンプスタッフ株式会社
人事戦略部 中途採用室
大野 氏
パーソルテンプスタッフ株式会社に中途入社。
専門事業部でのコーディネーターアシスタント、クライアント常駐を経て、2017年より中途採用担当に着任。
東日本エリアにおけるフロント職種の主幹担当として従事。

株式会社TalentX
MyRefer CS部 部長
清木 孝信
株式会社マイナビに中途入社。媒体営業として中途採用領域を担当し、大手企業向けの営業・企画部門の責任者として従事。
2018年より採用部門へ異動、中途採用領域を担当。
2021年に株式会社TalentX入社。大手企業向けのリファラル採用促進のコンサルティングや新規セールスを担当。
現在はMyRefer CS部の部長として従事。
採用市場動向と持続可能な採用の必要性
競争が激化する日本の採用市場と転職潜在層アプローチの必要性
清木:
現在、日本では労働人口の減少が大きな問題となっています。総人口の減少は緩やかですが、特に若年層の労働人口が急減しており、これが企業の採用環境に深刻な影響を及ぼしています。
- 労働市場の変動
労働市場の一例として、中途採用の有効求人倍率は2019年3月の1.2倍から2023年11月には2.7倍にまで上昇しました。これにより企業の採用難易度が上がり、中途採用の目標を達成できる企業は減少しています。2013年度上半期には62%の企業が中途採用目標を達成していましたが、2023年度上半期には39%にまで低下しています。
- 転職希望者数と実際の転職者数
転職希望者数は2010年の618万人から2023年には1,000万人を超えましたが、実際の転職者数は同期間で、283万人からほぼ横ばいである328万人にとどまっています。このギャップが「転職潜在層」の増加を示しており、企業はこれらの転職潜在層をいかに採用に結びつけるかを考える必要性が高まっています。

※出展:総務省統計局 労働力調査年報
時代の変化に応じた採用手法の必要性
清木:
従来の人材紹介や求人広告、ダイレクトリクルーティング、ハローワークといった外部のリソースを活用した採用手法ではなく、企業は自社のオウンドメディアやSNS、リファラル採用、タレントプール採用といった、自社のリソースを活用した「持続可能型の採用」を通じて転職潜在層にアプローチすることが必要になってきています。

パーソルテンプスタッフ様の取り組み
リファラル採用の注力背景
清木:
リファラル採用に注力された背景についてお伺いできますでしょうか。
大野氏:
年々社内から中途採用に対する要請が高まっており、どうしてもエージェントに頼る形になっていたものの、エージェントに頼った採用活動だけでは完全充足には届いていなかった中で、より幅広い方に当社に興味を持っていただいて応募に繋げていくことがとても重要だと考えました。また、エージェント比率が高まれば高まるほど、採用コストが大きくかかってしまうことに課題を抱えていました。
上記の背景から、2018年当時まだ市場で広まっていなかったリファラル採用を導入しようという形になりました。元々抱えていた課題を解決できるというところも大きいですが、実際に当社の社員から話を聞いた上で応募いただけますので、当社のビジネスや社風などにも高い興味関心を持ってくださる候補者の方が非常に多く、結果としてカルチャーマッチ度が高い採用に繋がっている点はよかったと思っています。
また、今すぐに転職のアクションを起こそうとしていない、まさに転職潜在層の方にもリーチしていけることもリファラル採用に注力した理由のうちの1つです。今すぐ入社いただかなくとも、3ヶ月後、半年後に検討いただける方にお会いできて接点を作ることができるのは、とても良い取り組みだと感じています。

これまでの取り組みや成果
大野氏:
まずはリファラル採用という手法を社員の皆さんに知っていただこうと思い、社内のイントラサイトにお知らせを掲載したり、チラシを配布したりと周知活動を行っていました。また、中途入社したばかりの方は社外の方とのコンタクト頻度も多いのでは?と仮説を立てまして、入社日のガイダンスにMyRefer並びに社員紹介制度の仕組みについてお伝えしたり、採用苦戦ポジションの紹介促進のために朝会に参加するなど、個別アプローチも実施しています。
直近2年だと、紹介インセンティブキャンペーンを通して一気に認知度が上がったと感じています。キャンペーンの内容としては、定められた期間内に応募されてかつご入社された方をご紹介くださった社員に対して10万円のインセンティブをお支払いするものです。このキャンペーンを通じて一気に応募者数と内定承諾者数が増えました。
定量成果という観点だと、制度導入時から比較して応募者数が9倍になっており、内定承諾率についても、平均すると毎年80%を推移しています。直近、2023年度ですと承諾率が100%になっており非常に高い成果でした。定性面だと、社内でリファラル採用が当たり前になることで、リファラル採用経由で入社された方が入社半年も経たずに、積極的に友人・知人を紹介してくださったり、アルムナイに関する問い合わせ増加に繋がっています。

清木:
取り組み施策について、より具体的にお伺いできますでしょうか?
大野氏:
TalentXさんから各社の事例やアドバイスをいただきながら、当社に合う施策を選定し実施してきました。

- リファラル採用の特設ページを設置
社内のイントラサイト上にリファラル採用に関する特設ページを作りました。リファラルに関するルールや、具体的な活用シーンや活用方法に関するTIPS、システムの操作マニュアルなど、リファラル採用にまつわるものを全てまとめて掲載しました。リファラルという言葉は知っているし、メールなどで見たり、聞いたりしたことはあるが、具体的にどう活用していけばいいか分からないという方々へのサポートに繋げたいと思ったのがきっかけです。本ページを作成してから、サイト経緯で問い合わせいただくことが増えました。実際に目に見えるようにすることはとても重要だと感じています。
- 各部署の朝会にて参加促進
部署ごとに実施している定例ミーティングに参加して、リファラルに関する説明をしたり、実際にその場でMyReferへのログインを行っていただきました。社員の皆さんに直接お話しするという機会をとても大事にしながら取り組んでいきました。ミーティング後に個別問い合わせを頂くことに繋がるなど、効果的な施策の1つだったと感じてます。
失敗施策とその背景から導く成功ポイント①

清木:
様々な施策にチャレンジしたからこそ失敗や学びがあったかと思いますが、具体的にお伺いできますか?
大野氏:
リファラル採用の専任担当として取り組み始めて2年ほど経過した際に、とにかく会社の皆さんにリファラル採用を知ってもらいたいと思い、人事からリファラル採用に関するお知らせメールをお送りしました。
清木:
各社様が取り組まれているとても良い施策だと思いますが、どのあたりが失敗だったのでしょうか?
大野氏:
勿論、内容や時期次第で、本施策自体は非常に有効なのですが、送り方が良くなかったと感じています。私の個人の業務用アドレスから全社へメールを送ってしまった事、気楽に読んでほしいという思いもあって余談も含め相当な長さのメールを送ってしまった事、この2点が失敗でした。
特に1点目については、個人のOutlookで送っていますので、開封率など効果の振り返りをすることができませんでした。また、良かれと思い余談も含めてメール文面を作ったのですが、業務で忙しい中時間を割いて読むには文量が多く、このメール配信自体が目新しく映ったのは恐らく初回だけだったと思います。
清木:
本施策踏まえてどのような学びがありましたか?
大野氏:
折角全社へメールを送るのであれば、目的・テーマを事前に設計するべきだったと思っています。配信時期や前回送付分との差別化観点もそうですが、メールを通してどういった情報を与えて、どう思ってほしいのかを設計することが重要だと思います。
2つ目の学びは、メール送付後の効果測定、メールを送ることで何をどう測りたいのかを事前に決めておくことです。MyReferから送ると、システムメールになってしまうので、迷惑メール扱いになることを懸念して、個人アドレスから送ったのですが、メール送付前後の求人閲覧数が知りたいのであれば数字が可視化できるようにしておくべきだったと感じています。
清木:
採用マーケティングという考えのもと各業様のご支援をしておりますが、リファラル採用も社員の方々に対する一種のマーケティング活動だと考えています。メッセージを受け取られた方にどう動いていただきたいのか、コミュニケーション計画を考えてアプローチするというのが重要ですね。
失敗施策とその背景から導く成功ポイント②

清木:
続いて2点目の施策についてもお伺いできますでしょうか?
大野氏:
札幌にて複数名の採用を行う中で、リファラル採用を活性化させたいという思いから紹介カードを制作し、配布をしました。
当社の社員が紹介カードを友人にお渡しをして、友人の方がQRコードを読み取ってくだされば、該当の募集ページにアクセスができるため、紹介社員も応募する方も手間が少ないと考えました。
しかし、結果としてはカードからアクセスしてくださった方は数名で、実際の応募には繋がりませんでした。カードを作成してから、札幌の現地担当者へ配布依頼をし、対象社員へカードの配布を知らせるメールを送ったきりになっており、恐らく社員はどのように活用したらいいのかイメージが沸いていなかったと思います。
清木:
本施策の失敗要因は何だと思いますか?
大野氏:
カードを作って配ることがゴールになっており、実際にどう使っていただくのか?という設計までできていなかったことです。カードのデザインにこだわって作っていたので、完成した満足感で満たされてしまい、正直なところ、カードが納品された時が頂点になっていました。
コミュニケーション設計をしてその上で施策を進めることが大事だったと反省しています。どんな施策においても施策を実施することが目的になっていたり、人事が伝えたいことベースになっていたりして、自社の社員が知りたいこと、実際に障壁になっていることなどが考慮できていないと失敗施策になってしまうと思います。
リファラル採用には、絶対的な正解がなく、他社の成功施策をただ真似してみても、自社の社員目線で考えられていないとワークしません。リファラル採用の成功のポイントとしてまとめるのであれば、社員にはどんなニーズがあるのか、どう伝えたいか、どう動いてほしいのかを徹底的に考えることだと思います。
パネルディスカッション
経年で成果創出するために意識されていること
清木:
2018年からリファラル採用に取り組んでいらっしゃる中で、経年で成果創出するために意識されていらっしゃることをぜひご紹介いただけますでしょうか。
大野氏:
社内に何かを発信する機会には、必ずなにかしらリファラル採用のことを宣伝することを意識しています。また、リファラル採用において、いきなり行動・紹介を促すことはできないので、まずは知ってもらう、機会があったときにリファラル採用を想起してもらうことが大事だと思います。
なので、認知向上施策を緩めずにやり続けること、かつ少しオリジナリティを加えてアップデートし続けることで飽きさせないこと、一定認知度が高まったら行動を促すためのきっかけとして、インセンティブで話題作りをするなど、地道に活動していくことが情報浸透に繋がっていくと思っています。
インセンティブ導入までの流れ
清木:
インセンティブについて、実際にどういった流れで導入に至ったのかお話しいただけますでしょうか?
大野氏:
もともとは、インセンティブなしでの制度運営をしておりましたが、世の中的にもリファラル採用の認知度が上がってきたので、もっと当社の社員にリファラル採用に興味を持ってほしい、前向きに取り組んでほしいと思い、活性化施策としてインセンティブの導入を検討しました。
一方で、法令順守の観点でも、きちんと人事制度化をする必要があったため、まずは社内でのフィジビリティ施策としてインセンティブのテストキャンペーンを2年間行い、効果測定を行ってから、制度化に向けて取り組みました。
制度化に関しては、各社見解が異なると思いますが、支払い対象や対象外の明確化など、妥当なラインをTalentXさんからアドバイスいただきました。金額の設定に関しては、当社の顧問弁護士の見解と、同規模の企業様やパーソルグループ内で先んじてインセンティブ制度を取り入れている企業の事例を参考にしながら決定しました。
清木:
制度化を検討してから時間をかけて(徐々に)論点をクリアし、導入に至ったのですね。
大野氏:
紹介してくれる社員の皆さんの善意だけで成り立つ取り組みにはしたくなかったので、いつかはインセンティブを導入したいとずっと思っていました。規定を作るのは初めての取り組みでしたので大変でしたが、念願叶って導入できて嬉しく思っています。
インセンティブ導入の目的の1つに、社員のリテンション向上を掲げていました。下記のグラフは求人閲覧数の増減を表しています。赤い点線の箇所がキャンペーンを打ち始めたタイミングですが、キャンペーンを通して、実際に社員の求人閲覧数が右肩上がりで伸びています。

承諾人数も2年間で2倍に伸びたのですが、ここまで急に伸長することはなかなかないと思いますし、時間をかけて検討して導入したインセンティブを通して、リファラル採用が社員の方々に還元できる取り組みになったと実感できました。また、MyReferを通じての紹介だと、紹介してくれた社員がなぜ当社を紹介したのかというコメントを入力できる機能があり、紹介が発生するたびに、社員が自ら言語化してくれた自社のおすすめポイントを見ることができるのも個人的にはとても嬉しかったです。
監修者情報
監修 | TalentX Lab.編集部
この記事は株式会社TalentXが運営するTalentX Lab.の編集部が監修しています。TalentX Lab.は株式会社TalentXが運営するタレントアクイジションを科学するメディアです。自社の採用戦略を設計し、転職潜在層から応募獲得、魅力付け、入社後活躍につなげるためのタレントアクイジション事例やノウハウを発信しています。記事内容にご質問などがございましたら、こちらよりご連絡ください。






